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Web連載 「サードカルチャーキッズ」を知ろう! 【連載終了】
第4回 「TCKの親であること」とは…


『サードカルチャーキッズ』
の翻訳者のお二人が、サードカルチャーキッズの母親としての日常的な視点と、
研究者としてのアカデミズムの観点、の2つの立場から
「サードカルチャーキッズの今!」をお届けします!

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嘉納もも


前回は「TCK」と「帰国子女」の違いについて私の見解を述べました。

今回は「TCKの親として気をつけなければならないこと」について触れたいと思います。


『サードカルチャーキッズ』の中で、私にとって特に印象的な言葉があります。

「家族を異文化環境に置くことを決断することは親がTCKを育てる決心をすることである」というく
だりです。

たとえば父親が商社に勤めているとしましょう。

海外駐在の辞令を受けて、「はい、行きます」とそのお父さんが返事をすることは、「はい、家族
を何年かの間、海外に移住させ、息子(娘)に異文化体験をさせて、その子がTCKになることを
承諾します」

と言うことに他ならないのだ、と著者ヴァン・リーケンたちは言っているのです。

これは大変な責任なのですが、親たちは必ずしもそれをしっかりと認識した上で海外に赴任して
いるとは限りません。

子どもをTCKとして育てるには、幾つかの困難を覚悟しなければなりませんが、ここではそのうち、
以下の二つに焦点を当てたいと思います。


1)国際移動のたびに、子どもの「社会化のプロセス」に断絶が生じかねないこと

2)長期的な異文化体験によって子どものパーソナリティ形成に影響が現れること


まず一つ目の困難について。

「社会化」とは平たく言えば、赤ちゃんが成長して社会の一員となるまでに、様々な体験をし、た
くさんの人々と交流し、その社会で機能するための知識やルールを学んでいく過程です。

ずっと日本で育つ子どもの場合、日本で暮らす上でのルールだけを学んでいけば大丈夫。

しかし、親の海外赴任でTCKになった子どもは、社会化の環境が日本だけでなく、ある時期は「
アメリカ」であったり、また別の時期は「ドバイ首長国」であったりします。

そして移動のたびに新しいルールを身に付けることになります。

ルールが変わっても上手く順応する子はいますが、それができない子もいます。

特に海外から日本に戻ったとき、ルールの変化に適応できない場合には親子で苦悩することに
なります。


いずれは日本に帰ることが決まっているのだったら、どこに行ってもそれを念頭において、親が
子どもに日本で通用するためのルールを教えればよい、と思われるかもしれません。

言語はもちろん、日本の学校の勉強やいわゆる「常識」のようなものも海外滞在中に教えること
ができれば、もちろんそれに越したことはありません。

しかしちょっと考えてみれば、それがいかに難しいことなのかは明らかでしょう。


帰国生支援団体のセミナーなどでは、「海外にいる間も、ちゃんと帰国後の進路を考えていない
と大変なことになりますよ」という警告がよく発信されます。

それは確かに妥当なアドバイスなのですが、日本から赴任して間もないお母さんが「現地の学
校に子どもをやっとこさ通わせて、自分も生活の基盤を一から築いて行くので精一杯なのに、そ
の上、帰国後のことを考えろなんて言われても無理です」と言った言葉にも、ついうなずいてしま
います。

また、新しい環境に慣れてくれば今度はその日常にどっぷりと浸って、帰国後の生活は遥かか
なたの、現実味の薄いものに思えてきます。

浦島太郎が竜宮城にいるような感じ、と言ったらよいでしょうか。

それでももちろん、日本への帰国に備えて日々涙ぐましい努力をしている駐在員親子は大勢い
ます。

ただ、それを長期的に続けることは多くのストレスを伴う、とだけは言っておきましょう。


次に、二つ目の困難について話を移します。

長期的な異文化体験は子どものパーソナリティの形成に影響を及ぼすと考えられていますが、
親もその結果を予測することがなかなかできません。

いや、実は親自身がその影響を軽視してしまう、という場合もあるのです。

外務省の平成22年度の統計によると、67,000人以上の学齢期の子どもたちが世界各地に
滞在しています。

私はこの統計において過去10年の間に、特に顕著に現れるようになった一つの傾向に注目
しています。

それは海外子女の「日本人学校離れ」という現象です。

従来、北米では9割以上の海外子女が現地校に通うのに対して、アジア諸国ではその反対
で9割が日本人学校に通う、というのがパターンでした。

これは親たちが赴任先の学校制度をどのように評価しているのか、ということを如実に示して
いるのですが、それでは何故、近年、アジア圏では日本人学校に通う子どもが激減(H22年
は5割以下)しているのでしょうか。

それほど現地校への評価が上がったからでしょうか。

いいえ、そうではありません。

日本人学校に通うかわりに、アジアの海外子女はインターナショナル・スクールに大挙して
行くようになったのです。

これは前回の記事にも書いたように、駐在員の間でも「帰国子女のステレオタイプ(=英語が
堪能、異文化体験が豊富)」がしっかりと根付いていることが原因だと考えられます。

「せっかく」海外駐在をするのに、日本人学校に入れてしまえば異文化体験の度合いが足ら
ない、と親は思うのでしょうか。

英語圏ではないけれど、インターナショナル・スクールに子どもを入れた方が「帰国子女らしい
帰国子女」になってくれる、と。

実際、私がアジア圏の駐在員家庭を取材した時にそのような話を多く耳にしました。

本来、TCKの異文化体験は国際移動する家庭のライフスタイルの単なる「副産物」であったの
に、それを「特典」と位置づけるようになっているとすれば、それは危険な考え方だと私は思い
ます。

子どもの社会化のプロセスにおいて文化環境が著しく変化すると、それが上手く作用して豊か
な体験となるケースもありますが、親子ともども多くの苦悩を背負うケースも出てきます。

自分自身が異文化環境の中で育っていない親には、それこそ想像だにできない状況が発生
することもあります。

そのような危険性があるからこそ、TCKの親の責任としてはいたずらに子どもを取り巻く文化
的環境を複雑にするのではなく、選択肢がある場合はなるべく一貫性を保つようにするほうが
よいのではないかというのが私の持論です。


もちろん、どんな場合でも日本人学校に入れ、日本への帰国だけを念頭においた生活をさせた
ほうがよい、と言っているのではありません。


次回の記事ではこの点も含め、さらに議論を進めて行きたいと思います。



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