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Web連載 かとちえの短歌色物語 【連載終了】
第2回 かとちえの短歌色物語 テーマは“桜色”

<ご挨拶>
こんにちは。加藤千恵です。

今回のテーマは「桜色」ということでしたが、みなさんお花見はされましたか?
北海道では桜がまだ咲いていなかったりするかとも思いますが……。

そして、4月ということで、新たな環境に身を置かれた方も多いかと思います。
メールでそういったことを報告してくださった方もいらっしゃって、なんだか嬉しかったです。
大学入学や就職、おめでとうございます!

さらに、春といえば、何か始めたくなる季節ですよね。
というわけで、でもないのですが、わたしは近いうちに普通免許(オートマ限定)を取るべく教習所に通う予定です。

「車の棒って……」と発言し、周囲から「それってギアのこと?」と言われたりするようなわたしですが、
なんとか取得できるように頑張ります。

教習所に通う旨、母にメールしたところ、
「やめてー! 被害者にも加害者にもならないでー!!」
という悲痛な叫びのこもったメールが返ってくるようなわたしですが、それでも取得できるように頑張ります。

みなさんもどうか無事を願ってください。

それでは作品にうつります。

半クラッチ!(覚えたての言葉を使いたかっただけです。ごめんなさい)

<今月の作品> ~第2回テーマ「桜色」~


  落ちた花びら

 桜はあらかた咲き終えていた。足元には無数の花びら。

 それでも公園の中、一本だけ、誰かの忘れ物みたいに咲いている桜があって、

持参した敷き物を下に広げた。白い桜だ。しだれているから、しだれざくらじゃないかと思うけれど、

花には詳しくないからわからない。見た人全員がきっとそう思うように、綺麗だな、と思った。

「やっぱり咲き終わっちゃってるな」

 彼が言い、その後すかさず、

「でも、一本だけ咲いてるのも、なかなか風流だけど」

 と付け足した。気まずさがあるのだろう。本当なら、お花見は先週の予定だった。

けれど、彼の都合で延期になってしまったのだ。《突然仕事が入ってしまった》せいで。

先週だったら、桜は満開だっただろうな、と思いながら、そうだね、と答えた。

 バッグから、3つのタッパーを取り出す。それぞれ、ほうれん草入りの卵焼きと唐揚げ、

きのことパプリカのマリネ、ごまドレッシングをかけた蒸し野菜が入っている。

ラップに包んだおにぎりは、鮭の炊き込みごはんと、梅干し入りの2種類用意した。

「すごい、おいしそう」

 そう声をあげる彼に、微笑みながら割り箸を手渡した。それからさらに、缶ビールを渡す。

わたしはレモンの缶チューハイだ。プルタブをあけ、特に何も言わずに乾杯をした。

「おいしい」

 鮭のおにぎりを口に含んだ彼が言う。

「よかった。でもごめん、小骨が取り切れてないかもしれないから、気をつけてね」

 いや、大丈夫だよ、と答える彼を見ながら、わたしに刺さっている小骨を思う。

彼は、このことに気づいているのだろうか。

 風が吹き、花びらが舞い落ちる。いくつかが、おかずの上にも落ちてきた。

箸で取り除きながら、何を話そうか迷った。少し離れた場所で、男の子たちが遊んでいて、こちらにも声が聞こえてくる。

一人が、どういうルールだよー、と叫んだのがはっきりと聞き取れた。

 落ちた花びらを取り除くと、そのタイミングを見計らったように、彼が立ち上がった。

見上げて、無言で首をかしげると、ちょっとトイレ、と早口に告げられた。

「いってらっしゃい」

 そう言ってから、わたしは唐揚げを口にほおばる。横目で彼の背中を見た。

ジーンズの尻ポケットには、携帯電話が入っていることを、見て見ぬふりする。

きっとメールを送るのだろう。あるいは電話するのだろうか。

 最近彼の仕事がなぜか突然忙しくなったこと。最近会う頻度が減ったこと。

最近彼が携帯電話を手放さずにいること。数え上げればキリがない。

点を結べば簡単に形となって浮かび上がるはずのものを、ただひたすら、卵みたいに

あたためつづけているのは、もはや愛情ではないのだと知っている。

 再び風が吹き、花びらが舞い散る。花吹雪、と小さく口にしてみた。

卵焼きの上に乗ったピンク色は、まるで最初からそういうものであるかのように、彩りの一部となって存在している。

花吹雪舞散る中の僕たちは見た目程には幸せじゃない(纏亭写楽)





<今月の優秀作>


「桜色」ということで募集していた短歌ですが、
やっぱりそのものずばりの桜を使った作品が多かったですね。
それぞれのドラマ、すごくおもしろかったです。

あなたからキス(嘘じゃない)私からキス(夢じゃない)さくら満開(トヨタエリ)
あの人は桜の色にさらわれた 僕が僕になれないからか(チェンジアッパー)
 不思議な魅力のある短歌ですね。ばっと舞い散る桜の情景が浮かびました。

一本の傘させぬままふたりして濡れた額にさくらのかおり(ゆうごん)
 漢字とひらがなの使い分け方に、雰囲気を感じます。

咲く前の桜の君が好きでした 未練前線北上中です (伊藤夏人)
 悲しみもちょっとした笑いも含んだ、魅力ある短歌ですね。未練前線!

「またな」ってそんなのウソに決まってる 私は笑う 桜が積もる(ぐみ)
 前半はわりとよくある内容ですが、後ろ二句のつながり方がよかったです。

友だちのままで無邪気に笑えない見渡す限り何もかも桜(月下燕)
 何もかも桜、の言い回しに惹かれました。確かに桜に似合う言い方ですね。

はなびらは踏まれて色を失うね 川面に散らなかったばかりに(空山くも太郎)
 発想も表現も、とてもいいと思いました。字面も綺麗ですね。

足先に散らない桜施してあなたを越えてゆく 今度こそ(西野明日香)
桜色のぺディキュアを塗りあの人の春になるため駆け出すつま先(Re:)
 上2首、似たテーマの作品は他にもあったのですが、魅力ある言い回しが決め手となりました。

花びらの数だけ言葉飲み込んだ 聞いたらきっと散る花だから(クマクマ)
 後半の、飛躍ある表現が、背後にある物語の想像を膨らませますね。

車椅子押して歩いた春の土手ばあちゃん桜は平等に咲くね(ゆりは)
 春によく似合う、柔らかな作品ですね。終盤には読者に想像させる力があります。

春雨が桜の花をときほぐす もう繋げない右手を握る(加藤サイ)
 淡い悲しみが満ちている、綺麗な歌だと思いました。

つんつつん ひとりステップ踏んでみる 桜色なる悲しみを背に(なつこ)
 独特の擬音が効果を出していますね。結句の少し硬い言い回しも、雰囲気があります。

ありふれたハッピーエンドも悪くない 卒業式に泣くきみをみて(柚木 良)
 まとまりのある、ストレートで共感性も高い短歌だと思いました。

そこら中で口づけされているような花見の席でも笑えずにいる(さかいたつろう)
 比喩がすごいですね。強引さもあるけれど、とても言い得てる感じです。

<次回テーマ&かとちえ短歌>


「かとちえの短歌色物語」では、
毎回、ある色(日本の伝統色)をテーマとした短歌を募集しています。
次回のテーマは、「黒壇」です。

こう書くと怖そうな感じですが、単純に黒をイメージしていただければ大丈夫です。
色の詳細は下記サイトをご参照くださいね。
http://www.colordic.org/colorsample/2461.html

黒壇という言葉を使わなければいけないということではなく、
その色とイメージが結びつくような短歌を募集します。
その色の物体ということでもいいですし、
抽象的なものでも、イメージからずれていなければ大丈夫です。
以下は募集要項です。
5月25日締め切りで、一人2首以内、テーマ記載の上、
ペンネームがある場合はペンネームも添えて。発表は6月25日となります。
アンコール連載となってから、
締め切り日及び更新頻度が変更になってますので、お気をつけください!
→送り先:tanka_57577@3anet.co.jp(第二出版部「かとちえの短歌色物語」係まで。
アドレスの「@」を半角に修正してお送りください)

そして、以下、黒壇をテーマに詠んだわたしの作品です。

いつまでもあなたはキレイでいればいい 
わたしに黒い思いをあずけて

(加藤千恵)