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Web連載 かとちえの短歌色物語 【連載終了】
第3回 かとちえの短歌色物語 テーマは“黒檀”

<ご挨拶>
こんにちは。加藤千恵です。

前回この欄で、「半クラッチ!」と書いたところ、
何名かの皆様から「半クラッチはオートマの場合、関係ないのでは」という旨、ツッコミいただきました。

大丈夫です、さすがに知ってます! 使いたかっただけです!

クリープ現象!(これももちろん使いたかっただけです)

そして、免許はまだ取得できていないのですが、そういうこととは関係なく、今月、友人たちと沖縄に行ってきました。
今回投稿してくださったKさんも、6月頭に沖縄に行かれたそうですが、もしかしてすれちがっていたりして……?
わたしは本島に3泊4日の滞在でした。

ちなみに人生で初めての沖縄でした。

ずーっと笑いっぱなしで、何から何まで楽しかったです。
ごはんはおいしいし、景色は綺麗だし、
何度住みたいと思ったか(言ったか)わかりません……。

なんだか今も旅行気分から抜け切れていない感じですが、作品にうつりたいと思います。

ツマリツノザメ!(美ら海水族館で知ったものの一つ)

<今月の作品> ~第3回テーマ「黒壇」~


  あるきたくない

 歩くのはわりと好きだ。夜ならなおさらのこと。

 だけど、終わらない別れ話を抱えながらとなれば別だ。

あたしは泣かないようにするのが精一杯で、周りの景色も、散歩にちょうどいい今日の気温も、全然関係ない。

どうでもいい。今すぐこの場から立ち去りたい気持ちと、この場で座り込んでしまいたい

気持ちが、ぐにゃぐにゃに絡まりあっていて、足を動かすのがやっとだ。

「嫌いになったとか、そういうことじゃないんだ」

 彼が言う。もう何回も繰り返された言葉を。わかったよ、もういい、と言いたいのに、

口にすると涙まで一緒にこぼれてしまいそうで、言えない。

 何も言わないあたしの右手を、彼の左手が柔らかく握る。振りほどいて駆け出すくらいのことができる女だったら、

また少し違った結果になっていたのだろうか。

わからない。結局は、形のいい手を、握り返してしまう。

 この人と、もっといろんなことができると思っていたのに。

 もはや一緒に行けるところすらも思い浮かばない。夜の中で迷子だ。駅に着いて、電車に乗って、

家に帰ることが、今のあたしにできるのだろうか。

 夜に何度も一緒に歩いた。何度も何十度も。今日が一番悲しい。

「ずっとこのままいたい」

 自分の思考が勝手に言葉になったのかと思ったけど、言ったのは彼だった。

あたしもだよ、とも、だったら別れないで、とも言えなくて、やっぱり重たい足を動かしつづけるくらいしかできない。

口の中に熱いものがたまっていく。

 きっと何を言っても悲しいし、何を言われても悲しい。

 涙をこらえきれなくなったのは、彼のほうだった。ごめん、と言いながら、鼻をすする彼に、何も言ってあげられない。

あたしもついに我慢できなくなってしまって、涙が頬をすべり落ちるのを、仕方なく受け止めている。

ほんのりとしたしょっぱさが腹立たしい。もっと苦いほうが納得できると思った。

でも、どんなに苦くたって、納得なんかできないのかもしれない、と思い直す。

 お寺の前にさしかかる。この道は、全然人が通らない。タクシーなら何台か横を通り過ぎていく。

どこに向かっているのか知らない。多分どこにも向かってないんだと思う。

向かえないのか、向かってないのか、もうあたしにはちゃんとわかることができない。

この思いの、どこまでが悲しさで、どこまでが寂しさで、どこまでが苦しさなのかわからないのと一緒だ。

「東京タワーだ」

 黙っていた彼が言ったので、あたしは自分の靴に落としていた視線をあげる。

思わず声をあげてしまいそうになった。少し離れた場所に見えるのは、確かに東京タワーに間違いないけれど、いつもとまるで違う。

全然綺麗じゃない。

黒い。

 どんどん涙があふれ出てくる。鼻水も一緒になって。ティッシュを出したいけど、つないでいる手を離したくない。

本当に、ずっとこのままいられたらいいのに。

好き、と口にしたら、ますますタワーが黒くなった気がした。

 東京タワーはいつだって赤くて綺麗だったのに。タワーの下でキスをしたこともあったのに。

今日の東京タワーは黒い。きっと、明日からも。

漆黒の東京タワーが現れてぼくらの夢は終わりを告げた(ウクレレ)





<今月の優秀作>


「黒壇」、結構難しいテーマとなったのかなという印象がありました。

いくつか同じものを取り上げている作品もあり、偶然っぷりに驚いたりもしました。

黒ばかり着てた君との恋なのにピンクに見えた世界が全部(みはるん)
 倒置は不要な気もしましたが、わかりやすさはいいですね。

おとうとにかなしい嘘をついた夜のまぶたの裏はひたすら黒い(夏実麦太朗)
 まぶたの裏も、夜も、黒さなのですね。物語的な感じを受けました。

携帯を閉じた右手に闇が降りメールは夜を駈け出してゆく(羽うさぎ)
 詩的な表現ですが、きちんと情景も浮かぶ歌だと思いました。

新しい色をいまだに決められずクローゼットの黒を捨てゆく(ひいらぎ)
 結局黒ばかり買ってしまいがちなわたしとしては、強く共感する歌でした。

こんな暗いところじゃなくてちゃんと見て それでもあたしがいいって言って(板倉ともこ)
 ストレートな女子の意見という感じですね!

あの髪にただひかれてる 「すき」なんてたいしたものじゃないんだ きっと(MOMO)
 冷静さを持とうとしながらも、まるでそうじゃないのが伝わってきて、切ないです。

たぶん泣く 鍋のおこげがとれないし君に頼っちゃもういけないし(こゆり)
 後半、重ね方のリズムがいいですね。鍋のこげには重曹です!(アルミは除く)

その角を曲がった車見送ると たたずむ夜に鍵音が鳴る (クマクマ)
 空白は必要ないかなーという感じもしました。後半がいいですね。

青空は私たちには似合わない 抱き合ったまま星座になりたい(遠藤しなもん)
 わけありな二人ですね。どんな名前の星座になるかが重要ですよね!

スピードはすっごい出てもそれだけの黒いスポーツカーでしょ 乗せて(伊藤夏人)
 ツンデレですね! 車種を出さないのも、かえってリアリティーがありました。

世界一しあわせそうな顔をしてきみが弾いてるねこふんじゃった(小野伊都子)
 黒い鍵盤がすうっと思い出されて、幸福感をおぼえる歌でした。

「黒板は緑色」って話しだけ残して朝を迎える二人(わだたかし)
 テーマの沿い方的には迷ったのですが、言葉のセンスや内容がかなり好みでした。

着信もないままひらいたままでいる そのうち黒になるのに見てる(空山くも太郎)
 共感する人も多そうですね。画面の黒って、妙に重たい感じですよね。

闇がすぐそばまで来てたの気付かずに逃げられなくてしゃがみこんでる(Re:)
 ちょっと意外な着地点でよかったです。包まれるのではなく、しゃがむんですね。

だんだんと体がとけてゆくような新月の闇に二人で散歩(やましろひでゆき)
 今回の作品は散歩をテーマにしたのですが、対極的な感じですよね。

<次回テーマ&かとちえ短歌>


「かとちえの短歌色物語」では、
毎回、ある色(日本の伝統色)をテーマとした短歌を募集しています。
次回のテーマは、「紺碧」です。

空や海が思いつきやすいでしょうか。
色の詳細は下記サイトをご参照くださいね。
http://www.colordic.org/colorsample/2077.html
紺碧という言葉を使わなければいけないということではなく、
その色とイメージが結びつくような短歌を募集します。
その色の物体ということでもいいですし、
抽象的なものでも、イメージからずれていなければ大丈夫です。
以下は募集要項です。

7月25日締め切りで、一人2首以内、テーマ記載の上、
ペンネームがある場合はペンネームも添えて。発表は8月25日となります。
アンコール連載となってから、
締め切り日及び更新頻度が変更になってますので、お気をつけください。
ついに次回がアンコール連載最終回となりますので、
今まで送ってくださっていた方はもちろん、
送るのをためらっていたような方も、
ぜひぜひ短歌を応募していただければと思います。よろしくお願いします!
→送り先:tanka_57577@3anet.co.jp(第二出版部「かとちえの短歌色物語」係まで。
アドレスの「@」を半角に修正してお送りください)

そして、以下、紺碧をテーマに詠んだわたしの作品です。

 

忘れたいことをあずけてしまうにはあまりにも青すぎる海だね


(加藤千恵)