general

その他関連情報

Web連載 かとちえの短歌色物語 【連載終了】
最終回 かとちえの短歌色物語 テーマは“紺碧”

<ご挨拶>
こんにちは。加藤千恵です。

みなさん、夏を満喫されていますか?

わたしは、浴衣を着て屋形船に乗ったり、
江戸時代の花火と同じ製法でつくられているという線香花火をしてみたり、
それなりに夏っぽく過ごしています。

大人になり、夏休みはまるで関係ない職業につきましたが、
毎年、夏休みの終わりは寂しかったことをはっきりと憶えています。

そして、夏休みの終わりよりも、ずっと寂しいことに、
今回「かとちえの短歌色物語」は最終回を迎えます。

シリーズで考えると、かなりの回数を重ねてきたこともあり、
思い出話だけで、何時間でも語れそうです。

寂しさはいくらでも口からこぼれ落ちそうですが、
あえて笑って楽しく、この連載を終えられればと思います。

みなさんと交流できるこの場所が、わたしはほんとに大好きでした。
メッセージも短歌も、本当に本当に嬉しくて、全部じっくり読んでいました。

今回、特別な短歌を送ってくださったみなさん、ありがとうございます。
もちろん他に短歌を投稿してくださったみなさんも、読んでくださっていたみなさんも、ありがとうございます。

またどこかでお会いしましょう。

みなさん、素晴らしい夏を! 素晴らしい日々を!

<今月の作品> ~最終回テーマ「紺碧」~


  好き、さよなら、きらい、またあした

「ねえ、明日で世界が終わっちゃうならどうする?」

 どこか楽しそうに彼女が聞く。この質問を彼にするのは初めてじゃない。

3回目くらい? 明日以降も彼と彼女が生きていて、彼と彼女が恋人でいるのならば、その回数はもっと増えるのだろう。

4回、5回、6回、7回。何回目であっても、彼女はきっとどこか楽しそうな声で彼に尋ねるのだろう。

「どうしようかな。……明日で世界が終わっちゃうならどうする?」

 さっきまで他の女の子にメールを打っていた指先を上手に動かして、彼が彼女の頭を優しく撫でる。

細くて茶色い、柔らかな髪の毛。

16歳のとき、彼女は高校の服装検査で髪の色を注意されたことがある。

地毛だと言い張った(実際に地毛だったのだ)彼女に、指導することだけが楽しみであったかのような体育教師は、

そんな地毛の色があるはずはない、と一喝した。

そのことを彼は知らない。彼女自身、とっくの昔に忘れてしまったことだから無理もない。

いつか彼女が再びそのことを思い出すときがくるのかどうか、それはわからない。

「デパ地下に並んでるマカロン、全部の店の全種類買って食べ比べする」

 近くには誰もいない。同じ音だけが繰り返されている。彼は帰ろうという言葉を、どのタイミングで切り出そうか悩んでいる。

けれど彼女だって、いつまでもこの場所にいたいわけじゃない。とうに退屈しきっているのだ。

「マカロン、あとで買ってあげるよ」

「嘘。マカロン嫌いだし」

「え、どっち?」

 彼は彼女が、マカロンを好きなのか嫌いなのか知りたいと思う。

けれど今まで2人で一緒にマカロンを食べたことはない。

渡り蟹のトマトソースパスタを食べたことはある。

4種類のチーズのピザを食べたことはある。

シーザーサラダを食べたことはある。

コーヒーを飲んだことはある。

けれど、彼女の好きな食べ物も、嫌いな食べ物もよく知らないということに、彼は気づく。

彼が彼女に好きな食べ物を尋ねようとするより一瞬早く、彼女が彼に言う。

「明日から核戦争が始まるんだよ」

「何それ」

「嘘」

 彼女が彼の手をやわらかく振りほどき、3歩ほど歩いてみる。

どこまでも続いていそうな砂浜だけれど、終わりがある。

終わらないものは何ひとつないのだ。

「わたしのこと好き?」

「うん」

「わたしのこと愛してる?」

「うん」

「わたしも」

「ほんと?」

「嘘」

 彼が笑う。彼女も笑っている。波の音が繰り返されている。

彼の携帯電話は、ポケットの中で青く光り、別の女の子からのメール受信を知らせている。

彼女はそれを知っているようにも、まるで知らないようにも見える様子で、自分の髪の毛にそっと手をやる。

海岸でTOKYOみたいな嘘を言い地球最後の笑顔のふたり(虫武一俊)


                            


<今月の優秀作>


最終回ということで、出血大サービスです。
容量いっぱいまで短歌を紹介させていただきます。
長いので読みづらくてごめんなさい。
そして紹介しきれなかった方、本当にごめんなさい。

今回だけでなく、今まで投稿してくださった方すべてに感謝します。
素敵な短歌を、ありがとうございました。

すみわたる南の海のおくそこに碧と蒼とのさかいめはある(夏実麦太朗)
 あおとあを、ではなく、碧と蒼、なのですね。ひらがなと漢字のバランスが美しいです。

この空の青で心を染めておき曇った明日に備えております(纏亭写楽)
 明日が曇りであることに備えておく、という発想がおもしろいですね。

飛行機の窓から見えるあの青はきっと空でも海でもなくて(みつこ)
 飛行機自体が心象風景と読むこともできそうですね。

海深く鯨の骨に抱(いだ)かれて紺碧の空を夢見て眠る(小埜マコト)
 物語や童話ともつながるような、不思議な印象を受けました。

青空の下で黄色い声を出す俺の彼女のブラジャーは赤(トヨタエリ)
 信号カラーですね。シンプルな構造ながら、笑いがあります。

一瞥もくれずに通り過ぎようとしている君に見せたい冷静(兎野恭子)
 冷静って、確かに青のイメージですよね。

青空をケータイ片手に仰ぎ見る あの子もどこかで見てるといいな(みはるん)
 シンプルで可愛らしい内容だと思いました。

深い青に溺れて泣いてしまうからまだ行かれない海に行かない(羽うさぎ)
 後半の句の、どこか不思議な言い回しが好きです。

紺碧に染まるつもりでやってきた太平洋はあたしの味方(みお)
 これも後半の句が魅力的な短歌だと思いました。

海色のカーテンを引くどこまでも一人になれると水を浮かべる(イマイ)
 比喩としてのカーテンや水なのでしょうか。イメージが浮かびます。

ちょっとだけ恋人っぽいシチュエーション ブルーハワイは溶けだしている(遠藤しなもん)
 かなり想像(妄想?)を広げられそうな短歌ですね!

恋人を募集するなら真っ青な旗がいいでしょ 振り続けるよ(伊藤夏人)
 好きな人に対しての言葉と読むと、おもしろさの中にも切なさがありますね。

真っ青で大粒の飴かみくだく 泣き出しそうなのバレずに済んだ(山崎真由)
 必死さが伝わってきて、切ない短歌ですね。

手に入れたくて手に入れたくて掬っても水はそんな色じゃなかった(藤野唯)
 哲学的で、深い短歌だと思いました。水以外のものにも共通しそうですね。

見てみたら言われて空を目に入れるあまりに青くて今が刺さる(色屋)
 どこか不思議な言い回しですが、独特の世界を作り出していると思いました。

君の穿くブルージーンズ洗うから乾いちゃうまでそばに居させて(クマクマ)
 一番乾きにくいジーンズを……。策士ですね!

青色の着信点る きみからだ そんな設定もはずせずにいる(空山くも太郎)
 一字アケの、きみからだ、が切なさに拍車をかけていますね。

いっしゅんが永遠になるつないだ手 世界の果ての海は凪いでいた(夏端月)
 物語の始まり、あるいはラストにそのまま似合いそうな短歌ですね。

どしゃぶりの中にひろがる青い空 ブルーシートにかくれてふたり(岡本雅哉)
 続きが気になります! 可愛らしくも、大人な内容とも読めそうですね。

宇宙から見える地球も地球から見える宇宙も同じ色です(星輪 倉梨子)
 宇宙をテーマにしたものは多く見られましたが、中でも印象的でした。

湖を胸にたたえる君だから小石くらいの嘘を投げ込む(文月育葉)
 比喩がとてもうまく、効果的だと思いました。

いろいろとあっていろいろとなくして そういうあなたの色した空だ(板倉ともこ)
 具体性がもう少しあってもいい気はしましたが、だからこそ想像が広がります。

ノンウォッシュデニムが薄い水色になるまで一緒にいようね 好きだよ(安藤えいみ)
 最後にグッときます。可愛らしいですね。

縁日の帰りのキスで全身がブルーハワイの色に満たされ(わだたかし)
 これも可愛らしい短歌だと思いました。幸福さがにじみでていますね。

君の名を呼べずに空に叫んでる あえいうえおあお、あえいうえおあお(月下燕)
 母音かと思い、思わずいくつかの苗字や名前を当てはめてしまいました。

ケータイで青空だけを切り取って悲しいことは忘れてしまえ(ウクレレ)
 ケータイという軽い言葉と、結句の強い言い切りが、対照的でいいですね。

その横で鬼火のように燃えているあたしが花火に照らされて夏(さかいたつろう)
 さかいさんの短歌は、いつも完成度が高いですね。すごく好きです。夏。

太陽とコバルトブルーが待っている地図にかってに印を付ける(はづき生)
 かってに、というのがおもしろいですね。誰か別の人の地図なのでしょうか。

ちょっとだけ青すぎたんだあの夏は海にも空にも馴染めずにいた(田中ましろ)
 若さの青、実際の(海などの)青と、重ね方が見事ですね。

意味深なところでメールやめないで 海のむこうを見てる沖縄(こゆり)
 上の句と下の句の飛躍具合が、とてもいい距離ですね。綺麗にまとまっています。

海面に映った星をすくったね やくそくなんてしていなくても(MOMO)
 やくそく、がひらがなのところに、切なさと優しさを感じました。

そんなにも泣きたかったのだと気づく 買ったばかりのワンピースは青(ろくもじ)
 佐藤真由美さんの短歌にも通じるような、女子共感度の高そうな歌ですね。

夏空にビールを置いて仰ぎ見る 天国はいいところでしょうか(キタパラアサメ)
 夏とビールって、確かに語りかけたくなる組み合わせですよね。

青ざめた夜にひとりは駄目だよと君は小さな手をさしだした(やましろひでゆき)
 深い夜を、青ざめた夜、と表現したところがすごくいいと思いました。

耳そうじ夏の縁側かあさんの膝から見上げた空は紺碧(ゆりは)
 書かれていない部分の、たとえば音や匂いまで、伝わってきそうですね。

青いバラが咲く未来なら欲しくない 届かない夢があってもいいよ(都季)
 前半と後半の、ちょっとしたギャップがよかったです。前向きに着地するとは!

眠ってるつもりで待った朝 この闇を薄めて空にするはずの朝(柚木 良)
 冷静であるからこその、あやうさも感じさせますね。

上向いてかき消すようにひと息ですするブルーハワイをすする(伊藤真也)
 強がっている女の子の姿が浮かびましたが、人によってイメージが変わりそうですね。

きみの眼に映った海は深いから溺れることもわかってはいた(小野伊都子)
 最初からわかっていても、進んでしまうことって、ありますよね。なんだかわかります。

この海はとても電気をよく通す 人を素直にしてしまうほど(チェンジアッパー)
 海と電気の組み合わせが、新鮮でおもしろかったです。

友情を越えられなかったあの夏の海の青さと高い太陽(ひいらぎ)
 ポジティブな単語を用いながらの切なさ、いいですね。

<かとちえ短歌>


最終回のため、いつもの募集テーマやわたしからの短歌はありません……、
という予定だったのですが、
どうしても書かせていただきたかったので、一首だけ。

この連載中に感じていたものを短歌にさせてもらったのですが、
それぞれの句の最初の言葉一文字を並べると、メッセージになっているかもしれません。なってないかもしれません。

みなさん、ほんとに、ありがとうございました!


 

紛れもなく大切だった いつだってつのる思いは輝いていた


                      (加藤千恵)