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Web連載 かとちえの短歌ストーリー 【連載終了】
第1回 かとちえの短歌ストーリー テーマは“中華街”

<ご挨拶>


こんにちは、加藤千恵です。

今回から、ついに、内容をリニューアルということで、タイトルも『かとちえの短歌ストーリー』となりました!
どうか今まで同様、そして今まで以上に、どうぞよろしくお願いします。

これを機会に、見ているだけだった方の投稿が増えると嬉しいです。
もちろん今まで常連だった方にも、期待してます!

そして、ご意見などもどしどしいただけるとありがたいです。
そちらもよろしくお願いします。


<今月の作品> ~第1回テーマ「中華街」~


肉まん

待ち合わせ場所である、駅の北口改札前に、ソウくんはまだ姿を現していなかった。

予想通りだったので、驚きはしなかったけれど、少しだけ不穏な気持ちになり、それでいてどこかで安心も覚えた。

今のうちに帰っちゃうのもありかもしれないと考えていると、後ろから肩を叩かれたので、身体が大げさにびくっと反応した。

慌てて振り向くと、そこには笑みを浮かべて立っているソウくんがいた。

いつもより緊張して見えるけれど、それはわたしが緊張しているせいかもしれない。

「そんなに驚かれると思わなかった」

そう言いながら改札に向かう彼の、後ろを付いていく。

初めて見る紺のダウンジャケットを着ているソウくんは、イメージよりも背が高い感じがした。

「っていうかさ、遅れて来たんだから、謝罪しなよ、謝罪」

「法学部の人は、すぐに謝罪とか言い出すからなー」

「それは関係ない。とにかくなんかおごってもらうからね」

「えー。真理ちゃんってばこわーい」

なんだか必要以上に明るく振る舞っているみたいだ、と思いながら、ホームに並んで、やって来る電車を待った。

冷たい風が頬に刺さるので、何度か手で顔をさすりながら。

電車の中、わたしたちは、ずっとしゃべっていた。たとえば共通科目『言語と社会』の教授の口癖について。

ソウくんのバイト先であるカラオケボックスに現れる変な客について。好きなバンドの新譜について。

沈黙を怖がるかのように話し続け、笑うわたしたちは、けれどルールであるかのように、ある一つの単語は絶対に出さなくて、

それがかえって、あることを意識させつづけた。

その話題に触れたのは、中華街にやって来て、パンダグッズだらけのお店に入ってからのことだ。

「ねえ、これ、あいつ好きそうじゃない?」

中国風の曲を鳴らしながら、電池で動くパンダのおもちゃを手にとって、ソウくんは言った。

笑いながら大きくうなずいたわたしもまた、近くに飾られていたパンダのキーホルダーを手にとって、これも好きそうだよ、と言った。

それが合図だったみたいに、わたしたちはあらゆる商品を手にとって、騒ぎ出した。

これは絶対、由美の好きなタイプのパンダだよ。

あ、これ、由美の家で見た気がする。

これは由美に言わせると「ダメパンダ」だろうなー。

もう、このお店ごと由美にプレゼントしたいよね。

長い時間をかけて、ソウくんが選び出した由美へのプレゼントとは、パンダ柄のパジャマとパンダの写真付き卓上カレンダーだった。

彼が会計を済ませている間、わたしは由美から、ソウくんのことを初めて紹介された日のことを思い出していた。

「紹介するね。この人が宗治。つきあうことになったんだ」

あの日の由美の笑顔を、くっきりと、覚えている。

ソウくんが、パンダ好きの由美へのプレゼントを買い終えてしまうと、わたしたちには中華街に留まっている理由がなくなった。

それなのに、駅の方には向かわずに、ふらふらとあたりを歩いている。

なんか家出みたいだよねえ、と笑うこともできない。

唐突にソウくんが足を止め、何かと思ったら、肉まんを買っている。

せいろから出る湯気は、見ているだけでもあたたかそうだ。じっと見ていると、買ったばかりのそれを手渡された。

「これ、今日の遅刻のお詫びってことで。あと付き合ってくれたし」

渡された肉まんは、見た目通り、あたたかかった。一口頬ばって、おいしい、と言うと、俺も一口食べたい、とソウくんが言う。

手渡すと、勢いよく頬ばり、熱い、と少し大きめの声で言う。

思わず笑いながら、再び手渡される肉まんを受け取る。

ねえ、やっぱもう一口ちょうだい。

えー、だってこれ、お詫びじゃなかったの。

思いのほかおいしかったからさあ。

もう一つ買えばいいじゃん、今度はあんまんでもいいよ。

どんだけおごらせる気だよー。

けど、お詫びとお礼にしては安すぎじゃん。俺、貧乏な学生なんだから、そこは出世払いで一つ。

楽しげに歩くわたしたちは、すれ違う人からは、カップルにしか見えないだろうと思う。それがいいことなのか悪いことなのか。

わたしは何を望んでいるのか。ソウくんの手に触れたいという思いをごまかすかのように、

わたしは彼に、残り少なくなった肉まんを手渡す。


わたしたちの子供みたいな肉まんがつながない手を温めている


(遠藤しなもん)



<今月の優秀作>


ショートストーリーで使わせていただいた短歌以外にも、すばらしい作品がいくつもありましたので、
短いコメント付きで紹介させていただきます。


握った手もっとホットになってくれ 赤色キラキラする中華街(宇津つよし)
単語の選び方や配置に、独特のパワーを感じます。


シウマイと北京ダックが食べたくて来たわけじゃない君とはるばる(伊藤なっと)
食べたくて来たわけじゃないのは、君ともわたしとも読めますね。


桃色のチャイナドレスの小姐の脚が綺麗だ 来なきゃよかった(トヨタエリ)
嫉妬を可愛らしく描けていると思います。


この後にキスをするかもしれないし餃子に箸をつけないランチ(文月育葉)
お、乙女! 見習わなければ、と思わされました。


少しだけ海外のようなこの街で少しだけきみの指先に触れる(ろくもじ)
確かに海外のような感じしますよね。


中華街ひとりぼっちでさまよえば道行くひともみんな迷子だ(岡本雅哉)
中華街と迷子のイメージ、妙に合う気がします。


ぐるぐるの硬いお菓子が好きだったあなたを中華街にて想う(ほんださゆり)
ぐるぐるの硬いお菓子、ありますね! 絵が浮かびます。


たまて箱のけむりのようでまだyesと言えないセイロの蓋が開いても(てこな)
喚起力にすぐれた作品だと思います。


<次のテーマ&今月のかとちえ短歌>


ショートストーリーとなってから、≪ある場所でのシーン≫を連想させる短歌を募集しておりますが、
今回の《ある場所》は、「水族館」です。


みなさんからのご応募、お待ちしてます!
以下は募集要項です。
3月10日締め切りで、一人2首以内、テーマ記載の上、
ペンネームがある場合はペンネームも添えて。
→送り先:tanka_57577@3anet.co.jp(第二出版部「かとちえの短歌ストーリー」係まで。アドレスの「@」を半角に修正してお送りください)

また、参考になればということで、
わたし自身も、このお題で詠んでみました。

泳いでるマグロにだけは教えてもいいと思った この人が好き


(加藤千恵)