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Web連載 かとちえの短歌ストーリー 【連載終了】
第2回 かとちえの短歌ストーリー テーマは“坂”

<ご挨拶>
こんにちは、加藤千恵です。

暦の上では春ですが、全くあったかくないですよね!!

2月中旬に、友だちと函館旅行したのですが、
あまりの寒さに、よく生きて帰ってこられたな、という気持ちになりました。

函館山からの夜景は、世界三大夜景というより、
世界三大吹雪というのを実感しました。

でも食べ物が本当においしかったし、街並みも綺麗で、
すごく楽しい旅行だったのですが。また行きたいなー。

あと今回、投稿された中に、偶然にも、函館が出てくる短歌があったりして、
なんだか嬉しかったです。下で紹介させていただいてます。
(もちろんその偶然だけでなく、内容に惹かれたんですけど)

ではでは、今月の作品にうつります。

<今月の作品> ~第2回テーマ「坂」~


  転がっていく

 足は冷やさない方がいいよと彼がしつこく言うので、わたしは思わず怒った。

そうだね、足は冷やさない方がいいし、不倫はしない方がいいよね、という嫌味を付けて。

「祐子はまたすぐにそういうこと言うんだから」

「だって嫌いなんだもん、靴下」

「だからって、不倫とか持ち出すことないでしょう」

 むしろなんだか楽しそうな様子で、彼はわたしのほっぺを軽くつねった。

子ども扱いじゃん、と思いつつも、わたしはわたしで、そんなに嫌な気はしなかった。

「今度、室内履き買ってあげるね。あったかいスリッパとか」

 そう言いながら帰り支度をする彼に、どうせ買ってもらうならプラダの靴とかがいいなあ、と返した。

じゃあ白い室内履き買って、黒いマジックでプラダって書いてやるよ、という彼の言葉は、付き合い程度に笑って流した。

 狭い玄関で、軽くキスをしてから、彼は帰っていった。

途端に、足の裏からフローリングの冷たさが伝わってくるような気がして、室内履き、ほんとに買ってもらおうかな、と思い直した。

 翌日の夜になって電話がかかってきたので、やっぱり室内履き買ってほしいな、とお願いしようと思ったのに、

もしもし、という声だけでもう、そんな状態じゃないのがわかった。

 単純な話だった。奥さんにバレたから、もうわたしとは付き合えない。

わかりやすく、シンプルで悲しい話。冗談だったらいいのになあって思いながら、今にも泣きそうな彼の声を聞いていた。

わたしだって泣きたいけど、うまく涙なんて出てこない。

 何を言ったのかもよくわからないまま、切れた電話とわたしが部屋に取り残される。

自分がどんな相槌を打ったのか、すぐさっきまでのことなのに思い出せない。

何を言ったとしたって、どうしようもなかったということだけはぼんやりとわかっていた。

 信じられない。

 不倫なんていう言葉から、ずっと遠く離れた関係のように思ってた。

わたしが彼を好きで、彼がわたしを好きで、だけどたまたま、彼が結婚してるっていうだけで。

だからこそ、ネタにして笑いあうようなこともできたのに。

 信じられない。

 奥さんにバレたからって、簡単に別れてしまうことができるだなんて。

だってあんなに好きとか大好きとか愛してるとかずっと一緒にいたいとか離れたくないとか、そんなふうに交わした言葉たちは、

一瞬にして嘘になったり、消えてしまうようなものじゃなかったはずなのに。

 信じられない。

 いつか結婚したいとか子どもが欲しいなんて思ってないし、ただずっと、手をつないでいたかっただけなのに。

不可能なことじゃないと思っていたのに。

 信じられない。

 わたしと彼の恋は、あくまでもわたしと彼の恋であって、誰かがそこに介入したりできるものじゃないのに。

 信じられない。

 いつまでも、どこまでも、行ける気がしていたのに。見たこともないような場所まで。

それがたとえ、どんなにひどい場所であっても、2人なら、なんとかなるはずなのに。2人なら。2人でいれば。

 視線を下げると、自分の素足があった。薄いピンクのペディキュアははがれかけているし、爪も伸びている。

足は冷やさない方がいいよ、と彼の口調を真似て、小さく声に出してみた。

当たり前だけど、全然、似てなかった。全然、全然、似てなかった。

坂道を転がるくらいの覚悟ならできてるんだと思っていたの
                              (やまよし)




<今月の優秀作>


ショートストーリーで使わせていただいた短歌以外にも、すばらしい作品がいくつもありましたので、
短いコメント付きで紹介させていただきます。

好きじゃないあなたのことを考えて自転車をこぐ やっぱり好きだ(トヨタエリ)
 展開が読めてしまうのが残念でしたが、読みやすく感じられました。

「長崎は坂が多いよ」それだけのメールだったし関係だったし(小埜マコト)
 想像を広げさせられます。ちなみに長崎は福山雅治出身地ですね!

函館の坂から海へまっすぐに跳び込みたくなるような失恋(安藤えいみ)
 偶然にもこないだ行ったばかりです、函館。見事な比喩ですね。

坂道を二ケツで転がる 風を切る 青春だとは気づかなかった(ちりピ)
 さわやかで好感度の高い一首です。

焼きたてのパンの匂いも坂道を転がることに気づく日曜(末松さくや)
 まとまりのある、美しい一首だと思いました。

坂道を越えて7歩で振り返る きっと向こうで君も振り向く(ゴニオ)
 幸せな歌とも、そうでない歌とも読めますね。でもやっぱり切なさを感じます。

この坂にたくさん涙を染みこませ 上って下りて忘れていった (ほんださゆり)
 主張自体はシンプルですが、リズムがすごくいいです。

二歩くらい前を歩いて振り向いて「同じ背だね」と君が笑った(わだたかし)
 可愛らしい情景が、わかりやすく描けていると思いました。

<次のテーマ&今月のかとちえ短歌>


ショートストーリーとなってから、
《ある場所でのシーン》を連想させる短歌を募集しておりますが、
今回の《ある場所》は、「会社」です。

みなさんからのご応募、お待ちしてます!
以下は募集要項です。
4月10日締め切りで、一人2首以内、テーマ記載の上、
ペンネームがある場合はペンネームも添えて。
→送り先:tanka_57577@3anet.co.jp(第二出版部「かとちえの短歌ストーリー」係まで。アドレスの「@」を半角に修正してお送りください)

そしてわたしも会社をテーマに詠んでみました。
はっきりいって難しかったです。

コピーするときだけ何も考えずいられた 君に会えないひと月


                               (加藤千恵)