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Web連載 かとちえの短歌ストーリー 【連載終了】
第5回 かとちえの短歌ストーリー テーマは“スーパー”

<ご挨拶>
こんにちは、加藤千恵です。

前回書いていた引越しは、無事に終わったものの、部屋の片隅に置かれたままの、
開けていない段ボールを見て見ないふりする日々です。

そして、唐突な宣伝になりますが、
7月6日(日)に、歌人の天野慶さんと、渋谷でトークイベント
を行います。

詳細は随時、わたしのブログ「とぎれた日々の前に立ち止まる」、
http://d.hatena.ne.jp/chiekato/
で更新予定ですので、どうぞご確認ください。

多くの人にお会いできることを願ってます! ぜひ! ぜひぜひ!
来てください!

それでは、今月の作品にうつらせていただきます。

<今月の作品> ~第5回テーマ「スーパー」~


  味方だった

 深夜まで営業しているスーパーは、わたしの味方だった。

ヨシノブと暮らすようになって、わたしは駅前のスーパーに通いはじめた。

今までは近所のお弁当屋さんやコンビニで済ませていた夕食を、きちんと自分で作るようにしたからだ。

仕事帰りに、慌ただしく店内を回った。

入り口のところに置かれている数種類のレシピカードを参考に、材料をそのまま買うこともあれば、

とりあえず目についた特売品を買って、ビニール袋を抱えた帰り道で、何をつくるかを必死になって考えることもあった。

ヨシノブが夕食を準備してくれることもあった。

たいていはカレーだったけれど、すごくおいしく感じられたのは、彼のことが信じられないくらい好きだったからだろう。

 苦手だったみじん切りの速度があがり、冷蔵庫にあるものだけでうまく献立を組み立てられるようになった頃、

ヨシノブはわたしの部屋を出て行った。他に好きな子がいるのだと言った。

自分がどんな返事をしたかは憶えていない。

わたしが状況を飲み込めていないまま、彼は新たに部屋を借り、引越しをした。

引越しの日が、やけに晴れていたことだけは、記憶にしっかりと残っている。

 仕事は休まなかった。それほど忙しい時期でもないし、有給だって残っている、にもかかわらず。

旅行にでも出かけてくれば、と何人かの女友だちに提案されたけれど、あいまいに首を振った。

怖かったのだ。

ヨシノブがいないということが、わたしの失恋が、一気に受け入れなければいけない現実になってしまいそうで。

ぼんやりと日々をやり過ごしていくことのほうが、よっぽどよかった。

 深夜まで営業しているスーパーは、わたしと無関係なものになった。

 毎日の習慣となっていた料理なのに、しなくなるのは簡単だった。

圧力鍋も、フードプロセッサーも、棚の奥深くにしまいこみ、やがて忘れた。

あんなに食材が詰まっていたことが嘘のように、冷蔵庫はからっぽであることを当然みたいに受け入れていた。

ずっと前からそうでしたよ、と言わんばかりに。コンビニのお弁当の味にもすっかり慣れ、そして飽きた。

 引越しのときのようによく晴れた日を何度も十何度も過ごして、気がつけば季節が変わろうとしていた。

仕事は忙しい時期に入り、残業も当たり前となっていた。

 なんとか座れるくらいの混み具合の電車に乗って、最寄り駅に帰ってきたとき、なんとなく立ち寄れずにいたスーパーに、

なんとなく立ち寄れる気がした。

実際、そうした。レシピカードには目もくれず、カゴを持って、野菜売場から進んでいくことにした。

 深夜まで営業しているスーパーは、わたしの味方だ。

だけど、あの頃とは違う。緑のカゴに入っているのは、ひき肉と卵と玉ねぎじゃなくて、冷凍食品のハンバーグ。

じゃがいもときゅうりとハムじゃなくて、出来合いのポテトサラダ。

あの頃よりも、カゴの中身は明らかに軽くなっているのに、腕が重く感じられて、わたしは立ち尽くす。

明日も仕事なのに。

早く帰ってごはんを食べて、お風呂に入って眠らなきゃいけないのに。

冷食と惣菜でカゴを埋め尽くした やっぱり君がいなくちゃだめだ
                                (ろくもじ)




<今月の優秀作>


気になった短歌を、短いコメント付きで紹介させていただきます。

バリエーションに富んでいて、どの短歌をショートストーリーに使わせていただくか、
かなり悩んでしまいました。

肉売り場魚売り場は寒いから手をつないでもきっと無罪だ(トヨタエリ)
 ひんやりとした独特の空気、というところに目をつけたのが面白かったです。

半額のシール貼られた助六を手に取り思い出してる別れ(クサカベミカ)
 思いもよらない物がきっかけになるということを、うまく表現できていると思います。

忘れない 午前二時スーパーの駐車場で握られた手を(さかいたつろう)
 スーパーが開いていたのか(24時間スーパーもありますよね)、そうでないかで、 違った読み方ができそうな感じですね。

思い出がありすぎてまだ切ってないたまねぎにさえ泣かされている(藤野唯)
 内容はいいのですが、スーパーとの関連性が低かったのが、ちょっと残念です。

丸ごとのキャベツをラップするコツでお姫様だっこしてあげようか(ウクレレ)
 どんなコツなのか気になって、思わずだっこされる女子が急増……はしないですね。

はじめてのスーパーで探すねりごまのようにあなたの意図が見えない(てこな)
 ねりごまという小道具のセレクトの上手さにやられました。

今夜ならハーゲンダッツがあればすぐ元気になれるし、あなたも要らない (安藤えいみ)
 個人的に共感度の高い短歌です! 読点はなくてもいいような。

前輪が暴れるようなスピードで 鮮魚売り場に妻の名を呼ぶ(伊藤 真也)
 夫が子どもについて詠んだ歌なのか、あるいは自分自身についてなのかで、 印象がまるで変わる歌ですね!

ショッピングカートにふたりでのせたものたちは単なるものとはいえないもので(岡本雅哉)
 「ふたり」のいろんな関係性やカートの中身、さまざまな想像ができそうですね。

<次のテーマ&今月のかとちえ短歌>


ショートストーリーとなってから、
《ある場所でのシーン》を連想させる短歌を募集しておりますが、
今回の《ある場所》は、「ファミレス」です。
たくさんのご応募、お待ちしてます!

以下は募集要項です。
7月10日締め切りで、一人2首以内、テーマ記載の上、
ペンネームがある場合はペンネームも添えて。
→送り先:tanka_57577@3anet.co.jp(第二出版部「かとちえの短歌ストーリー」係まで。
アドレスの「@」を半角に修正してお送りください)

そして、以下、ファミレスをテーマに詠んだわたしの作品です。

 

デニーズであんなに笑い合ったのが幻みたいに接されている


                                (加藤千恵)