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Web連載 かとちえの短歌ストーリー 【連載終了】
第6回 かとちえの短歌ストーリー テーマは“プール”

<ご挨拶>
こんにちは、加藤千恵です。

夏―。(という挨拶はどうでしょう。どうでしょうって聞くまでも
ない感じですが)

今回のテーマは「プール」ということで募集していた短歌ストーリー
ですが、実はわたし自身はカナヅチです。まるで泳げません。

どのくらい泳げないかというと、
プールや海に行く前、一緒に行く予定の友だちと、
「わたし泳げないんだよね」「わたしもだよー」とか話していて、
行った後にはその友だちが、

「本当に泳げないっていうのは、千恵みたいなことをいうんだね。
それに比べると、わたしは泳げてた。ごめん」

というようなことを言い出すくらいです。

そういうことも1度や2度じゃないです。
でもくじけずに今月の作品にいきます。

<今月の作品> ~第6回テーマ「プール」~


  焼けるまで

 日に焼けたら髪がいたむし、肌も赤くなるし、人もやたらと多いし、

そもそも暑いし、めんどくさいと言っていやがるあたしの言葉なんか、

全然聞いてないって感じで、最後は結局、こっちが折れることになるのだ、絶対。

 水曜だしすいてるんじゃねーの、と言ったケンタの予想は、案の定、大きくはずれて、プールは混みまくりだ。

ほらやっぱり夏休みだし、

すいてるわけないじゃんと言うあたしの横で、最初はやっぱスライダーからせめていくか、あー、流れるプールもいいな、

なんて独り言を続けている。

明日も朝からバイトなんだから、はしゃぎすぎないようにしなよ、と言うと、そこだけはしっかりと、大丈夫だって、

と歯まで見せるように笑って答える。

 高校時代のケンタの、体育での張り切り具合を思い出す。

他の科目の授業ではほぼ例外なく眠っているくせに、体育だけは、別人みたいに、明るく動き回っていた。

体育館内、半分に区切られた隣のスペースで授業を受けている女子の間でも、

ケンタって体育の時間だけは頑張りまくってるね、と話題になって笑われてしまうほどに。

あれから三年ほどが経ち、ケンタがフリーターとなり、あたしが大学生となり、

あたしたちが付き合うようになった今も、全然変わらない。

 着替えを済ませて、更衣室を出ると、ケンタが待っていた。

遅いなー、と言いつつ嬉しそうなのは、これから泳ぐのが本当に楽しみだからだろう。

 改めて外に出ると、肌に強い熱を感じた。日焼け止めはしっかり塗ってきたものの、帰る頃には赤くなってしまいそうだ。

改めて、少しだけ文句を言おうと思って、隣のケンタに目をやると、ちょうど彼も、笑いを貼りつけたままこっちを見た。

「早く行こう。スライダーが俺を呼んでる気がする」

 呼んでないよというあたしのつっこみもろくに聞かずに、そのまま嬉しそうに歩いて行くので、

口から出かけた文句は、そのまま行き場を失ってしまう。小走りで後を追った。

 はしゃぎすぎないようにというあたしの忠告なんてなかったみたいに、さんざん泳ぎまくって走りまわったケンタは、

帰りの電車内、隣の席に座って、眠いという言葉を連発している。

実際、見るからにまぶたが重そうで、今にも眠ってしまいそうに見える。

うっすらと赤くなった腕をこすりながら、言った。

「だから、はしゃぎすぎないようにって言ったのにー。明日のバイト起きられるの?」

「まじ無理。明日のことは考えたくない」

「だめじゃん」

 そう言ったわたしの肩に、ケンタが頭を乗せる。完全に寝る気だ。

仕方ないと思いつつ、髪をゆっくりなでたときに、ケンタが目をとじたまま、言った。

「今日、すごい楽しかった。次は海行こうよ」

「ケンタ、はしゃぎすぎるから、やだよ」

「えー、なんでだよ」

 答えるケンタは、きっと一分後には眠っているだろう。

ほんと仕方ないなあ、と再び思いながらも、今日、スライダーで二人でくっついて滑ったことや、

流れるプールで流されていたケンタの表情なんかを思い出して、思わず笑ってしまいそうになった。

全然人の話を聞いていない、運動が好きなケンタ。

 ビーチサンダル、去年のはだめになっちゃったから、新しいの買いにいかなきゃ。

ケンタの髪に触れながら、あたしも目を閉じた。

ビーサンの形に日焼けをするだろう君とわたしを今年も見たい
                              (安藤えいみ)




<今月の優秀作>


今回、実は、短歌ストーリーにリニューアルした後としては、今までで最多の短歌投稿数でした!
拍手! 感謝!
というわけで、ここでも最多の短歌紹介数とさせていただきます。

これでもかなり絞ったし、泣く泣く削ったものもあるのですが。

はしゃいでる波出るプール手をつなぐ 僕らはきっと乗り越えられる(宇津つよし)
 歌の一節みたいにさわやかですね。下の二句は付け句にもなりそうな。

真夜中にプールサイドでキスをする あたしのかわりに月がゆらいで(MOMO)
 ちょっとやりすぎかな(ドラマ性など)とも思ったのですが、ぎりぎりの ところでバランスをとっている作品だと思います。

飛び込め俺 さっき乗り越えたフェンスに夜の校舎に押し寄せろ波(古屋賢一)
 テーマとの関連性や、意味に疑問も残りましたが、勢いにやられました。

胸元を強調しながらちょっとだけ照れてる君と溶けそうになる (たから)
 暑さと熱さがかかってるんですよね? 夏カップル、いいですね。

焼けた草と土の匂いでふくらんだビニールプール 夕立を待つ(さくら)
 綺麗にまとまっていると思いました。ビニールプールをテーマにしているのも珍しくてよかったです。

ビキニからはみ出しそうな淋しさは流れるプールに流せばいいよ(文月育葉)
 流れるプールに物事を流す、というのは実は他にも同案が寄せられていたのですが、中でも一番完成度が高かったです。

この水着着れば三秒速くなる着なけりゃ僕と幸せになる(伊藤なつと)
 どんな状況なのか、問い詰めたいくらい気になりました。

君のいるプールサイドが気になって左でばかり息継ぎをした(帖あやこ)
あなたとの一年半は息つぎをしないで泳いだクロールでした(やまよし)

 上ニ首は、それぞれ息つぎを出しながらも、まるで違う仕上がりで、 おもしろかったです。
息つぎ短歌は、実は他にもあったのですが。

あの子にも君にもあっていい夏の秘密が混ざったプールに飛び込む(さかいたつろう)
 大阪の海にはみんなの捨てたさよなら(※上田正樹『悲しい色やね』参照) が、プールには夏の秘密があるんですね!

位置について)あなたの胸に飛びこむ(よーい)脚のふるえが止まらないけ(どん!)(岡本雅哉)
 技巧性にも非常に優れているし、内容もいいと思います。

ケイスケと知らないビキニと水しぶき 泳げないとか言ってたくせに(ゴニオ)
 ナイス男子短歌ですね! なんだかきゅんとしました。

 

<次のテーマ&今月のかとちえ短歌>


ショートストーリーとなってから、
《ある場所でのシーン》を連想させる短歌を募集しておりますが、
今回の《ある場所》は、「部屋」です。

部屋というと、解釈によってはかなり広がるので、
かえって難しくなってしまうかもしれないですね。どうか挑戦してみてください。
以下は募集要項です。
8月11日締め切りで、一人2首以内、テーマ記載の上、
ペンネームがある場合はペンネームも添えて。
→送り先:tanka_57577@3anet.co.jp(第二出版部「かとちえの短歌ストーリー」係まで。
アドレスの「@」を半角に修正してお送りください)

そして、以下、部屋をテーマに詠んだわたしの作品です。

 

別々に引っ越す未来は想像もしていなかった からっぽの部屋


(加藤千恵)