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Web連載 かとちえの短歌ストーリー 【連載終了】
第8回 かとちえの短歌ストーリー テーマは“部屋”
<ご挨拶>
こんにちは、加藤千恵です。

夏―!(多分この挨拶を使うのは、今回が今年最後……だと思います)
暑すぎだった8月、みなさんはどのように過ごされたのでしょうか。

わたしの8月は、甲子園観戦と北京五輪観戦で過ぎていきました。
当然、どっちもテレビですけど。

スポーツ、昔はまったく興味がなかったんですけど、
ここ数年、夏の甲子園は、かなりの楽しみとなっています。

自由業であることに感謝する季節です。
(一方、周囲の友だちが、ボーナスの話をしていたりするので、
自由業であることをくやしがる季節でもあります)

ちなみにプロ野球では日本ハムを応援しています。
北海道だからという、選手やプレーとは全然関係のない理由ではありますが。

<今月の作品> ~第8回テーマ「部屋」~


  部屋に行くまでは

 二杯目のカクテル(なんとかミルク、だった気がする。

名前を憶えていないけど、目の前のグラスに入ったそれはピンク色だ)を飲みながら、エリコが何か言いたげにこちらを見る。

頬が少しだけ赤いのは、早くも酔っているからだろう。

三杯目のビールを飲みきってから、なんかあったの、と聞いた。もっとも、聞く前から察しはついている。

「別に気にすることじゃないだろうな、とは思うんだけど」

 そう言って、また口をとじた。

早く聞きたい気もするけれど、せかすのもいやだったので、ポテトをつまんだ。

ここのポテトは、ニンニクと塩こしょうがきいていて、うまい。

しばらく沈黙が続いた後、ようやくという感じで、エリコが続きを話す。

「最近、ヨシフミさんがちょっと変なんだ。行動がおかしいっていうか……。

土日とか、一緒に家で過ごしてても、やたら外出するんだよね。飲み物買ってくるとか言って、

飲み物あるじゃんって言っても、いや別のが飲みたいからって、冷蔵庫に入ってないものを買いに行くんだよね。

コーヒーがあるときは紅茶、紅茶があるときはコーヒー、とかいう感じで。

しかも、コンビニなんてすぐそこなのに、長いときは三十分くらい戻ってこなくて、すごいあやしいじゃん? 

聞いたら、雑誌読んでたとか言うんだけど。絶対携帯電話持っていくし」

 さっきの沈黙を取り返すかのように、勢いよく話すと、ふう、とため息のような呼吸をついて、なんとかミルク、を再び飲んだ。

「それは、気にすることだろう」

 何を言っていいかわからないので、仕方なくそれだけを言うと、やっぱりそうかな、とエリコは小さく笑った。

俺は思わず苛立ってしまうけれど、苛立ちが、エリコに対してのものなのか、「ヨシフミさん」に対してのものなのか、

あるいは自分自身に対するものなのかわからない。どれも違うし、どれも正解なのだ、きっと。

「気になるなら、ついていってみればいいじゃん」

俺の提案に、エリコはすぐさま言葉を返す。

「そう思って、何度か言ったの。じゃあわたしも行こうかなとか、代わりに行ってこようかとか。

でも、いやいいよ、みたいに軽―く流されちゃって。

こっちも、そんなしつこくするのも変じゃん? 気まずい雰囲気になってもいやだし。だから結局はあきらめちゃうっていうか」

 っていうか、で話を終わらせる口癖は数年前から変わらない。

「別れりゃいいのに」

 思わずこぼれた俺の言葉に、エリコがさっきよりもはっきりと笑う。

けれど、痛々しい笑顔だ。少し痩せたかもしれないな、と思った。

聞こうかとも思ったけれど、会って何時間も経つのに、と言われるのがあまりにも目に見えているのでやめた。

「別れた方がいいのかな。やっぱり」

 さっきまで笑っていたはずのエリコの声のトーンが、一気に落ちる。

慌てて表情を確認すると、うつむいていたので、やばい泣くかも、と思ったけれど、

エリコはすぐに顔をあげて、メニューを手に取った。

次は何飲もうかな、と言う声は明るいけれど、もちろんわざとそういう声を出したのだとわかった。

 別れろよ。俺と一緒にいればいいじゃん。

 俺は言う。心の中でだけ。今までにもう何度も繰り返した言葉を。

けして実際に口に出すことはないであろう言葉を。

「送ってくよ」せめてマンション前までは そこから先はあいつが待ってる
                                     (さくら)




<今月の優秀作>


今回もたくさんの投稿をありがとうございました。
初めての方も多くいらっしゃって、大変嬉しいです。

反面、もしかすると、自分でも気づかない部分で、常連の方に厳しくなってしまっているかも……。

だけど今後も、どんどん投稿していただきたいと思ってます。
よろしくお願いします!

三度目の花火もここから見るつもりだった さよならレインボウハイツ(小野伊都子)
 ストレートでありながら、思わず背景を想像してしまう、完成度の高い歌ですね。

窓際で本を読んでるきみの顔 思い出したくなる、ときどきは (MOMO)
 句読点の入った歌は、あまり好きではないのですが、これに関しては、いい使い方だと思いました。

密室の男女に何も起こらない謎がもうすぐ成立します(伊藤夏人)
 そうか、あのときも、別のあのときも、全て謎だったのか……。知りませんでした。

手の届くところに全部置きたがる君の部屋から出て行くわたし(ウクレレ)
 わたしも、冬、コタツの周囲がそんな状態(全てを手の届くところに!)になります。

二人だと狭く感じたあの部屋に置きっぱなしのいろいろなこと(わだたかし)
 もう少し具体性があったほうがよかった気もしますが、うまくまとまった一首ですね。

伝説の寝言もいつものおはようもみんなみんなここで生まれた(伊藤真也)
 わたしが今まで聞いて印象的だった寝言は、「議長!」と「水木しげるは出馬するの?」です。

夕陽さんそろそろ空へお帰りよこの部屋だって借りてるんだし(たむぼりん)
 独特な主張や理由がおもしろかったです。

スーツケースひとつの荷物で生きていたい こんな様子じゃきっと無理だが(ハセガワヨーコ) 
 個人的に、今回一番共感した歌でした。本当に、そう生きたい!

この言葉はあの日の二人を記憶して海の底への入り口となり(纏亭写楽)
 わかりづらい部分もありますが、不思議な雰囲気を出すことに成功していると思います。

どうしよう,どこに座ればいいのだろう まだきみの手をにぎってないし(みおり)
 そこに境界線があるんですね、なるほど! ,は不要かなと思いました。

蒸し部屋で互いの髪を染めあった 明るいバカでいようと決めた(杉田亮介)
 後半、キャッチフレーズのようでいいですね。付け句にもなりそう。

<次のテーマ&今月のかとちえ短歌>


ショートストーリーとなってから、
《ある場所でのシーン》を連想させる短歌を募集しておりますが、
今回の《ある場所》は、「病院」です。

もしかして今までで一番難しいテーマかも……?
独自性が出て、おもしろくなるかなーと楽しみな気持ちもありますが。
以下は募集要項です。
10月10日締め切りで、一人2首以内、テーマ記載の上、
ペンネームがある場合はペンネームも添えて。
→送り先:tanka_57577@3anet.co.jp(第二出版部「かとちえの短歌ストーリー」係まで。
アドレスの「@」を半角に修正してお送りください)

そして、以下、病院をテーマに詠んだわたしの作品です。

わりと暗い内容となってしまいましたが。

 

元気って聞こうとしたけどそうじゃないのは知っている うまく笑えない


                                  (加藤千恵)