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Web連載 かとちえの短歌ストーリー 【連載終了】
第9回 かとちえの短歌ストーリー テーマは“橋”
<ご挨拶>
こんにちは、加藤千恵です。

この秋のわたしの目標は、コンビニやスーパーで、秋限定の、あらゆる栗スイーツを制覇することです。
まだ近くのお店しか行けてないので、頑張ります。

ところで、この「かとちえの短歌ストーリー」で、ある法則が存在していたこと、みなさんご存知でしたでしょうか。

それは、「ストーリーに採用される短歌の作者は女性」というものです。
というのも、今回メールでそれをご指摘くださった方がいらっしゃって、「えー、ほんとに?」と思いつつ、過去の連載を見てみると、
名前や短歌の内容から判断するに、確かに女性の作者ばかりでした。
(実際には男性の方がいらっしゃったらすみません!)

やっぱり同性のものをついつい選んでしまう傾向があるのだろうか……と思ったのですが、単純に、投稿者の割合として、女性の方が多いことが
関係しているのかもしれません。

いずれにしても、「女性のものしか選ばない」なんてことはないので、今後も男性投稿者の皆さん、変わらずに投稿してくださいね! もちろん女性も!
そして、その法則、今回で破られる……かも? それでは作品にうつります。

<今月の作品> ~第9回テーマ「橋」~


  橋のある街

 日曜日、図書館の自習室は、受験生で埋め尽くされている。あたしたちもまた、例外ではない。

「出ようか」

 卓磨が小声で言う。タイミングを合わせたかのように、閉館時刻が迫っていることを知らせる音楽とアナウンスが聞こえてくる。

うなずいて、あたしは机の上に開いていた世界史の問題集やノート、筆記用具を、バッグにしまいこむ。

 立ち上がると、背中と腰に鈍い痛みがあった。体が重たいんだけど、と言いながら、自習室を後にする。

いつもなら、体力落ちてんじゃないの、などとかわいくないことを言う卓磨が無言だったので、少しだけ、あれ、と思った。

かといってもちろん、繰り返すほどのことではない。

 図書館のガラス扉を開け、外が思いのほか暗くなっていることに驚きながら、駐輪場に向かった。

チャリのカギが見つからなくて、焦りながら探していると、卓磨が言った。

「あのさ、まだ時間平気? ちょっと散歩しない?」

「散歩? いいけど。チャリ置いて? っていうか、どこに?」

「うん、チャリは置いて。ちょっとそこの川原行こうよ」

 あたしの答えを聞かずに、卓磨が歩き出すので、あわてて後を追う。

 川原は、図書館からなら歩いて5分ほどだ。

歩いている間も、川原に並んで座り込んでからも、口を開かない卓磨の様子に、あたしは不安をおぼえる。

寒さも増してきた。

「ねえ、なんか卓磨、今日変じゃない? どうしたの?」

 卓磨は、しばらく川を見たまま黙っていたけれど、ようやく口を開いた。

「あのさ、俺、受験なんだけど、東京の大学受けるつもりなんだ」

「は? え、どういうこと?」

「隠してて、ごめんなさい」

 卓磨が突然立ち上がり、身体ごとあたしの方を向くと、頭を下げた。暗くて、表情がよく見えない。

あたしは、え、何、という、意味のない単語を繰り返す。

卓磨は動かない。とりあえず座って、と言うと、本当にごめん、と言いながら卓磨は腰をおろした。

心なしか、さっき並んで座っていたときよりも距離が開いてしまったように思えた。

 少し遠くに、橋が見える。そう大きくない橋だ。

 この街は、周囲を大きな川に囲まれるようにして存在している。だから橋も多い。

他の街に行くためには、あたしたちは橋を渡る。時には電車で、時には車で、時には歩いて。

 けれどあたしが、本当の意味で橋を渡りきることなんてないのだと思っていた。

3ヵ月後に控えた大学受験。あたしが受けるのは、本命の国立大学と、滑り止めの女子大、2校だ。

どちらもこの街の中にある。

浪人したら、この街の予備校に通うことになるのだろうし、どちらを卒業しても、この街の中で就職するのだろう。

そして結婚して、子どもを作って、この街で暮らしていくのだ。

それはもう、希望とか想像じゃなくって、もっと決まったことのように思える。

廊下を走ってはいけません、とか、家に帰ったら手洗いとうがいをしましょう、とかそういうことに近い感覚で。

 なのに、卓磨は。

 風が吹いた。寒い、と言おうとしたけれど、声にならない。目の前の景色が、少しずつぼやけはじめる。

鉛筆をころがした冬 あの橋を渡れなくって泣いたんじゃない
                               (虫武一俊)




<今月の優秀作>


今回、またしても、投稿数の多さが過去最高を記録しました。

ありがたい限りですが、
紹介できない作品が増えてしまうのも事実……。心苦しいです。

今後とも投稿お待ちしています。

この橋を渡ってすぐの信号が青じゃなくても 結婚しよう(ななひまわり)
 髪を君と同じくらい伸ばす、とかよりも、ずっといいプロポーズですね。

誰からも愛されてない状態で明石海峡大橋の上(トヨタエリ)
 まるで関係のないはずのものが、なぜかしっくり結びついていますね。おもしろいです。

呪われた江北橋を歩いたら夜景が綺麗だったのが最後(はづき生)
 読んだ人によって、まるで解釈が変わりそうな歌ですね。気になります。

下らないこと好きになる 君と橋渡りきるまで息止めるとか(安藤えいみ)
 わたしはいまだに、横断歩道は白いところを渡るようにしています。

「いや、急にうどん食いたくなっちゃって」って口実で渦潮越えて(赤城尚之)
 それは、かなり萌えですね! さまざまなものを越えてきていただきたいです。

海風を受けて僕らは飛ばされぬためだけ以上に手を握ってた(イツキ)
 言い回しの不自然さが、逆に持ち味となっていて、いい効果を出していると思いました。

橋の下きみを待ってたあの日々が送信フォルダに埋もれてしまう(木下奏)
 下2句のフレーズが、すごく印象的ですね。その分、上が薄く見えてしまうのが、残念でもあるのですが。

すみません配車お願いします今橋のたもとで泣いております(辻井竜一)
 頼まれたほうも、車出すの、勇気いりますね。おもしろいです。

「あたしもうどこにもいきたくない」橋のまんなかにへばりついていく嘘(さかいたつろう)
 抽象的になりすぎていない、上手な場所で踏みとどまっている作品だと思いました。

この橋を渡ればきみの町になる マイバッグには卯の花もある(小野 伊都子)
 綺麗にまとまっている歌ですね。派手さはないですが、好きな作品です。

突き落としたいほど好きでできるだけ歩道橋では手をつないでた(遠藤しなもん)
 突き落としたいほど好き、の手前と後は、何したいほど好き、なんでしょう……。

元気だと思えてるのに 渡るたび「死んじゃだめだ」ときみが呟く (杉田亮介)
 ちょっと異色なテーマで、暗喩としての橋が効いている作品ですね。

クラクションで消えた言葉の唇の動きを再生する歩道橋(ウクレレ)
 ドラマ的な一首だと思いました。映像がすんなり浮かぶというか。

あの人の 好きなものなら なんだって 覚えた たとえば橋の名前とかを (クサカベミカ)
 文字アケが多すぎに思えますが、内容はよかったです。字足らずも惜しいですが。

<次のテーマ&今月のかとちえ短歌>


ショートストーリーとなってから、
《ある場所でのシーン》を連想させる短歌を募集しておりますが、
今回の《ある場所》は、「駅」です。

さまざまなドラマがありそうですよね。
以下は募集要項です。
11月10日締め切りで、一人2首以内、テーマ記載の上、
ペンネームがある場合はペンネームも添えて。
→送り先:tanka_57577@3anet.co.jp(第二出版部「かとちえの短歌ストーリー」係まで。
アドレスの「@」を半角に修正してお送りください)

そして、以下、駅をテーマに詠んだわたしの作品です。

 

駅でキスするカップルを憎んでた あなたに駅でキスされるまで


(加藤千恵)