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Web連載 かとちえの短歌ストーリー 【連載終了】
第10回 かとちえの短歌ストーリー テーマは“病院”
<ご挨拶>
こんにちは、加藤千恵です。

今日(11/10)で25歳になりました。
四半世紀ですね。これからもいろいろ頑張ります。

同じ誕生日の川島なお美さんや糸井重里さんもおめでとうございます。

ところで寒くなってきて、街にカーディガンを着た男の人が増えたことが嬉しいです。

なぜならカーディガンを着た男の人が好きだから!
理由になってないような理由ですみません。
でも、カーディガン男子好き人口って、かなりの数がいるんじゃないかとふんでいます。

わたしもです、とか、僕の彼女もです、とか、
いやいや男子はTシャツに限りますよ、とか、
賛成意見・反対意見などありましたら、
ぜひメッセージお寄せくださいね。
(もちろんそれ以外のメッセージも受け付けています!)

それでは作品にうつります。

今回、自分の実際の読み方とは、少しずらした視点で書いてみました。
ちなみに先に言っておくと、作品とカーディガンはまるで関係ありません!

<今月の作品> ~第10回テーマ「病院」~


  お姫様

「さくらちゃん来てくれたの? いつもありがとう」

 お見舞いに来たわたしと、持ってきた花を見比べるようにして喜びの声をあげたのは、奈々のお母さんだ。

この人はいつも、実際の歳よりもずっと若く見える。パッチリした目元は、奈々そっくりだ。

もっとも、奈々がお母さんそっくり、というほうが正しいんだろうけど。もう帰るところだったようで、ベージュのジャケットを羽織っている。

「いいえ。具合は、大丈夫ですか?」

 言いながら、ベッドの上の奈々を見た。どうやら眠っているようだ。

「うん、もうすっかりいいみたいで、明後日くらいには退院できるでしょうって。

お昼ももう、普通の食事になったみたいだし。奈々、さくらちゃん来てくれたよ。奈々?」

「あ、起こさなくていいですよ! 少し待ってみて、起きなければ手紙置いていくんで」

 思わず早口になってしまった。奈々のお母さんが、少しだけ首をかたむけながら、言う。

「そう? そろそろ起きると思うんだけど」

「いいえ、大丈夫です。あの、ちょうど帰られるところだったんですか?」

「そうなの。そろそろ夕飯の準備もあるし。さくらちゃんがせっかく来てくれたところで、なんだか申し訳ないんだけど……」

「あ、ほんとに全然気にしないでください。花もいれておきますね」

 傍らの花瓶を示しながらそう言うと、奈々のお母さんは、そう? とか、でも、とか

申し訳なさそうな様子で言い、最後まで、ごめんねを繰り返しながら病室を出ていった。

 窓からは強いオレンジの光がさしこんでいる。起こさないようにしながら、内側のレースのカーテンをひいた。

花瓶に水を入れ、持ってきた花をさすと、もうすることがない。椅子に座って、奈々の寝顔を見る。

 普通の食事ができるようになったということだし、具合はいいのだろう。寝顔も健やかに思えた。

急性胃炎と聞いてびっくりしたけれど、そんなに長く入院することもなくてよかった。

 奈々が寝返りをうつ。起きるのかと思いきや、まだ眠っているらしい。早く起きればいいのに。

さくらいたのー、と奈々は嬉しそうに言ってくれるだろう。今日、学校で起こった出来事を話したい。

根元先生の出す眠気オーラの強さとか、紺ちゃんのサーブの入らなさとかについて。そして奈々が笑ってくれればいい。

 けれど一方では、ずっと寝顔を見ていたいと思った。

 椅子から立ち、ベッドに近づいた。寝息を立てる奈々の頬に、人差し指で触れてみる。

まつ毛の長い、色白の奈々は、童話に出てくるお姫様みたいだ。顔を近づけようとしたけれど、

さすがに言い訳が見つからないので、椅子に戻った。

本当は友だちなんかじゃない。奈々のことが、好き。

そうやって寝顔を睨み続けてる 王子様にはなれない彼女(三崎利佳)





<今月の優秀作>


今回もかなりの投稿数でした!
いつもよりも少しだけ多めに紹介しますが、紹介できない歌のほうがずっと多くて、残念です……ごめんなさい。

「ヘーキ」だと僕には笑って話す君 奴には「コワイ」と泣くのだろうか(みおり)
 切ないシチュエーションですね! 実は、ストーリー化を、すごくギリギリまで悩みました。

包帯でグルグルまきだ君だけに「スキ」って言うのはたぶん卑怯だ(宇津つよし)
 だけに、が気になりますね。三角関係? だ、の重なりが気持ちいいです。

ドクターの字は一様に汚くて缶コーヒーに助けを求める(イマイ)
 歌の主人公は、看護士なのか、患者なのか、あるいは別の誰かなのか。気になります。

退院の君が朝陽に溶けるのをここで見送る くしゃくしゃ顔で(西野明日香)
 くしゃくしゃ顔、がどんな顔なのかで、まるで心象風景が変わる歌ですね。

二人して生命線を書き足して優しく過ぎる消灯時間(小埜マコト)
 二人とも入院しているのでしょうか。目新しいシチュエーションでした。

誰だってよくなる病室 私でもよくならないかな貴方にとって(イトウマスミ)
 よくなる、に複数の意味を持たせてるんですね。さりげないのに上手さがあります。

弱ってるアタシを見にきてくれたらしい 寄り添うリンゴを素直になでる(さかい たつろう)
 いつもは強気な女の子像が浮かび上がりました。ちょっときゅんとしますね。

入院で「おめでとう」とか言われてる出産というステキイベント(夏端月)
 入院しておめでとうって、確かに他にはないですね。気づかなかったです。

とりあえず出しときますねと渡されたクスリみたいな優しさがにがい(岡本雅哉)
 画面の前でうなずく女子(男子?)続出ではないでしょうか。もちろんわたしもです。

「また来る」と「二度と来ない」がすれ違う病院からの帰り道には(さまよい海月)
 病院という場所を、真正面から捉えて切り取った感じがします。

病室の沈黙がやたら怖くっていつも饒舌になるキミとボク(やましろひでゆき)
 映像が、すごくはっきりと浮かびますね。共感性が高い歌だと思いました。

途切れずに林檎の皮をむけたなら少しは君を救えるのかな(都季)
 これもストーリー化の最終候補にまでしていた作品でした。切ないです。

院内の至急コールにダッシュする あなたの背中はいつも正しい(ななひまわり)
 下2句の言い回しが、すごく効いていますね。どこかに残る複雑な思いまで読み取れました。

おめでとは聞こえないふり 一昨年の卒業式より泣きたくなった(ろくもじ)
 病院内に好きな人ができた、退院する患者の心境、と読みましたがどうでしょうか。

真っ白な部屋で2人が5103滴ぶりに交わした会話(伊藤真也)
 かなりのドラマがありそうですね。点滴を単位とする発想が見事です。

じわりじわり麻酔の支配受け入れて失う私の一部を祈る(ひな子)
 私の一部を祈る、というところがすごくよかったです。独特の表現ですね。

<次のテーマ&今月のかとちえ短歌>


ショートストーリーとなってから、
《ある場所でのシーン》を連想させる短歌を募集しておりますが、
今回の《ある場所》は、「温泉」です。

サスペンスとか不倫カップルとか、思いついたものはいろいろ送ってくださいね。
(といいつつ、いつも通り、応募は一人2首以内でお願いしていますが……)
以下は募集要項です。
12月10日締め切りで、一人2首以内、テーマ記載の上、
ペンネームがある場合はペンネームも添えて。
→送り先:tanka_57577@3anet.co.jp(第二出版部「かとちえの短歌ストーリー」係まで。
アドレスの「@」を半角に修正してお送りください)

そして、以下、温泉をテーマに詠んだわたしの作品です。

 

湯上がりのせいにしといて さっきから赤くなってる身体のことは


                                   (加藤千恵)