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Web連載 かとちえの短歌ストーリー 【連載終了】
第11回 かとちえの短歌ストーリー テーマは“駅”
<ご挨拶>
こんにちは、加藤千恵です。

さっそくですが、とても感動していることがあります。
というのも、先月は、たくさんの誕生日祝福メッセージをありがとうございました!

もちろん全て、ありがたく読ませていただきました。

気になったのは、何人もの方が、
「I(実際はイニシャルではなく別の書き方)さんから聞きました」
というメッセージを添えてくださってるのですが、

Iさんは、もしかして、わたしの誕生日普及委員かなにかなのでしょうか。
ありがとうございます!

あと、テレビ(先月出演した『知るを楽しむ 歴史に好奇心』)の裏側を、
細かく想像して書いてくださったOさん、
正解は、当たらずといえども遠からず、という感じです。

また、可愛らしいバースデーカードを作ってくださった(!)Uさんも、
だいぶ実物より可愛く描いていただき、恐縮です。ありがとうございます!

プレゼントの代わりに『ゆるいカーブ』を買っておきますというIさん
(上のIさんとは別の方です)、それが大きなプレゼントです。ありがとうございます!

お礼を繰り返すしかできませんが、
みなさんのおかげで、すごく幸せな気分で25歳の誕生日を迎えることができました。

それでは、作品にうつります。

<今月の作品> ~第11回テーマ「駅」~


  甘くぬるく

 ロイヤルミルクティーは、やけに甘ったるい。知っていたはずなのに、頼んでしまったわたしのミスだ。

 部屋の加湿器のことを思った。消すつもりだったのに忘れていた。きっと小さく音を立てている。

アロマ加湿も楽しめる、と入っていた箱に書かれていた白い加湿器は、彼が会社の忘年会で当てたものだ。

ビンゴ王って呼んでもいいよ、と笑いながら言っていた彼は、加湿器は自分が当てたものだということを多分すっかり忘れている。

だから置いていったのだろう。あの部屋に。わたしも一緒に。

 もう何を言っていいのかわからなくて、早くもぬるくなりはじめた気がする

ロイヤルミルクティーをなんとか飲み干すと、顔をあげた。

彼がさっきからこちらを見ていたことは、気配で知っていた。

多分、わたしが顔をあげないことに少々焦っているのであろうことも。そのくせ彼は、わたしが顔をあげたことに、驚いた様子を見せた。

「本当にごめん」

 彼の言葉が、昨日やってたドラマの中のセリフみたいに聞こえる。

「何かあったら、いつでも連絡して」

 わたしは何も言わない。ただじっと彼を見た。彼の目にうつる自分の姿を見ようと思ったけれど、暗くてよくわからない。

「ごめん、もう行かなきゃ」

「わかった」

 久しぶりに出した声は、自分で意識した以上に、はっきりと響いた。まるでわたしが彼を置いていくみたいに。

 彼が席を立つ。カフェとも喫茶店ともいえないような店の席を。きっともう2度と来ない。

甘ったるいロイヤルミルクティーもこれで最後だ。

そう思ってみても、嬉しいとかせいせいするとかいう気持ちとは、程遠かった。当たり前か。

「加湿器、消し忘れちゃった」

 会計を済ませる彼の背中に言った。え、ああ、と彼は言った。

「あれ、ビンゴで当てたんだよね、そういえば」

 店を出てから彼が言った。うん、とわたしが言う。それから聞いた。

「もらっちゃってよかった?」

「うん、いいよ。使って」

 あっというまに駅だ。彼が立ち止まって、わたしのほうを向いた。

「キスしてくれてもいいよ」

 わざと変な言い方をしたら、そのまま本当にキスされた。人がいっぱいいるのに。

人前では手をつなぐのも、いつもいやがっていたくせに。そのまま強く抱きしめられた。

「ごめん」

 抱きしめられながら聞いた言葉に、もう何も言えなくなる。ただ感触や形や温度を記憶しようと思って、そうしていた。

しばらくして、彼の身体が離れる。

「じゃあ、行くね」

 泣きそうに見えるのは、気のせいだろうか。またね、と言おうと思ったけど、またねじゃないんだと気づいた。

「体、気をつけてね」

 それだけ言った。彼は頷いて、そっちもね、と言った。やっぱり声が半泣きだ。

 頭をくしゃくしゃとなでられた。じゃあ、と彼が言ったように思ったけど、空耳かもしれない。

改札を抜けていく背中を確認した。振り向いてほしいとも振り向かないでほしいとも思った。

彼は振り向かなかった。

 多分、通行する人たちの邪魔になりながら、わたしはそのまま立っていた。

部屋に戻らなきゃいけないけど、動けない。

 ようやく動き出した方向は、部屋とは逆だった。とにかく改札の向こうにと思った。

知らない駅でも、知ってる駅でもいい。加湿器がつけっぱなしのあの部屋に、一人で戻るのはいやだった。

 自動改札に、Suicaが入った財布を当てる。

予想に反し、ピコーンという機械音とともに、目の前で改札扉が閉ざされる。料金不足だ。

そうだ、チャージしなきゃいけないと思っていたんだ。

 チャージはすぐそこの切符売場でできる。そんなことわかっている。

なのにわたしは、動けない。駅員に声をかけられても、わたしはまだ泣いていた。

涙はどんどん出てくるのだった。

絶対に泣かないはずが改札にまで拒まれてもうダメだった(岡本雅哉)





<今月の優秀作>


今回またしても、過去の最多投稿数を更新……!

前回よりさらに増量して(当社比)ご紹介しますが、これでもまだ、紹介できない歌のほうがずっと多くて申し訳ないです。
すみません。

一回じゃ読めないような駅の名もアナタが住めば覚えてしまう(木下奏)
 読みづらい駅名多いですよね! 京都の「烏丸御池」をからすまるみいけ、と読んで駅員に笑われたことがあります。(正解はからすまおいけ)

電車待つ5分間の沈黙を破ってくれた君の小銭(みはや)
 少し不思議さが残る歌だなと思いました。小銭は落ちたのか、あるいはポケットなのか。

ゆうぐれの駅のベンチはつめたくてスポーツバッグと僕はつめたい(夏実麦太朗)
 使っている言葉は少なく、シンプルなのに、想像させる力がすごくあります。

改札でSuicaをピッ!てするようなキスできれいに終われたらいい(みおり)
 わたしも常々、いさぎよさが欲しいと思っています。(恋愛の話に限らず)

あなたから一駅ひと駅遠ざかる わたしのこころよ強くあれ(なつこ)
 字足らずが気になりましたが、逆に決意のあらわれとも読めると思いました。

西口で待ってたという言い訳を聞きながら冷めた目でみつめるアルタ(このえ)
 新宿の地理を知らない方には伝わりづらいかなと思いましたが、好きな歌でした。

週末の池袋駅 君と会う喜び 七秒ぽっちで飲み干す(こすぎ)
 嬉しくないふりなのか、嬉しいのは会えた瞬間だけなのか。色々想像させられました。

くちづけをおいて改札抜けていく背中に「あたしの」って書きたい(夏端月)
 今回の中で一番好きな歌かもしれません。女子の共感度高そうですね。

いつかこの電車を降りる日が来ても見送ってくれたのを忘れない(藤野唯)
 完成度がすごく高いですね。小説の素材にもなりそうです。

駅からの君の電話の騒音がいつもと違うような気がする(伊藤夏人)
 読み手および「君」の性別によっても、違ったドラマが生まれてきそうですね。

動物はご遠慮頂く構内で忠犬みたいなタカシと歩く(ゴニオ)
 思わずちょっと笑ってしまう微笑ましさがありました。

見たくない駅名がある あの頃の笑ってばかりの私がいるから(安藤えいみ)
 泣いてばかり、ではないところに深さがあるなと思いました。

ちょっとしたことにも泣いたり笑ったり 各駅停車の毎日だった(カオル)
 日々や生活を電車や駅に例えたものの中でも、わかりやすくまとまっていました。

急げバカ6時5分に着かないと駅であの子とすれ違えない(木屋亞万)
 すれ違うためだけに、自分に言い聞かせる……。恋まっさかりですね。

あの駅に忘れたフリで捨ててきた傘はいつまでアタシを恨む(ほたる)
 傘を忘れた(捨てた)ことだけでなく、傘の視点を入れているのがおもしろいです。

メール受信『もうすぐ着くよ』白線の内側でなんて待てないよもう(文月育葉)
 飛躍した比喩が、無理なく効いていますね。せつないです。

少しずつ忘れていこう 乗り換えが上手になったわけまで全部(ゆず)
 綺麗にまとまった一首だと思いました。読み手によって、ドラマが広がりそうです。

車から降りていく君足早に乱れたことなどなかったように(スキスキ)
 非難としての眼差しなのでしょうか。不倫とかそういうものを思い浮かべました。

俺的に新宿駅は来るはずのない人を待つための駅です(柚木 良)
 俺的にという切り口、飛躍をかなり許容できそうですよね。連作にしてみてほしいです。

改札の中からすっと手を伸ばし これで最後の握手をしよう(わだたかし)
 ストレートな作品ですね。まさに、いさぎよさが伝わってきます。

反対のホームに立っているきみと送り合ってるヒミツの信号(小野伊都子)
 萌えシチュエーションですね! どんな信号なんだろう……。


<次のテーマ、ではなく重要なお知らせ>


いつもならここで、次回のテーマ&わたしの短歌を発表するのですが、
今回は違ったお知らせです。

実は、「かとちえの短歌ストーリー」は、次回(1/10)更新分が最終回となります。
突然の、そして残念なお知らせでごめんなさい。

わたし自身としても残念ですし、大変心苦しいです。
ただ、このまま終わってしまうのではなく、
よりよい形で、またお会いできたらいいなと強く思っておりますし、
その可能性も充分にあります!

なので、勝手なお願いではありますが、
今後の動き、あたたかく見守っていただけたら嬉しいです。

また、そういったわけで、短歌はちょっと受け付けていないのですが、
ご意見やご感想は、今までと変わらず送っていただければと思いますので、
どうぞよろしくお願いします。
→送り先:tanka_57577@3anet.co.jp(第二出版部「かとちえの短歌ストーリー」係まで。
アドレスの「@」を半角に修正してお送りください)