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Web連載 かとちえの短歌ストーリー 【連載終了】
最終回 かとちえの短歌ストーリー テーマは“温泉”
<ご挨拶>
加藤千恵です。

あけましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いします。

そして、新年早々、悲しいお知らせではありますが、
前回この欄で発表したように、
今回で「かとちえの短歌ストーリー」は最終回となります。

残念、という言葉では表せないくらい残念ではありますが、
本当に楽しかったです、といって終わらせるほうが似合う気がします。

そのくらい、みなさんの短歌を読んだり、
ストーリーを考えるのは、楽しいことでした。
ありがとうございます。

最終回の今回、サプライズなお知らせもありますので、
ぜひ最後まで読んでいただけると嬉しいです。

<今月の作品> ~第12回テーマ「温泉」~


  乳白色

 たぶんわたしのほうが遅くなるだろうという読みは当たっていた。

部屋の扉をあけたとき、彼は、お、と言いながら笑いかけてくれたものの、もうすっかり待ちくたびれた様子を隠しきれてはいなかった。

テーブルの上には缶ビールが二本。顔も少し赤くなっているし、浴衣もちょっとはだけている。

お待たせしました、と言いながら、隣に座る。

「ごめん、だいぶ待たせちゃった?」

「長かったね」

 声が同時だった。思わず顔を見合わせて笑ってしまう。

「いい匂い」

 彼がそう言いながら、わたしの体を抱きしめる。

もうすっかり慣れている、と思うけれど、それは抱きしめられることに慣れたということかもしれない、と思い直す。

「顔がいつもより柔らかい」

 頬をなでられながらつぶやかれた。彼の指が冷たく感じる分、わたしの体があたたまっているのだろうと思う。

同じように、彼の頬をなでると、お酒のせいか思ったよりも熱く感じた。

「布団行く?」

 わたしたちがお風呂に入っている間に用意されたのであろう布団に、一瞬顔を向け、彼が言う。

質問だけど、断られることなんてまるで考えていないのだから、もはや質問ともいえない気もする。

「ちょっと待って。お水飲むから」

 旅行バッグから、昼間に買って、飲みかけになっていたペットボトルを取り出した。

ぬるいけれど、どこを通っていくかがはっきりとわかるように吸収されていく水は、さっきから感じていた強い渇きをうるおしてくれた。

「まだ飲みたい?」

 彼が聞き、わたしが答える前に、ペットボトルを奪われてしまう。

彼ののどぼとけが動くのを確認した直後に、唇が重ねられる。目を閉じると、唇から液体が流し込まれるのがわかった。

水だ。さっきよりもさらにぬるく感じる。

わたしが水を飲み干しても、彼がわたしの両頬をおさえる力は、しばらく止まらなかった。

手がはずされ、唇がはずされ、わたしが言った。

「びっくりした」

 笑う彼は、実際の年齢よりもずっと若く見える。今に始まったことではないけれど。そう思うと同時に、別の言葉が口から出ていた。

「また温泉連れてきてね。絶対」

 彼は、突然の言葉に、一瞬だけ驚いた表情を浮かべたものの、もちろん、と言ってわたしを抱きしめた。

得意げに、毎月だって旅行できるよ、と付け足す。

胸の中で、いろんな言葉が浮かんでいく。

 本当に? 毎月? 奥さんに疑われないようなうまい言い訳を、そんなに用意できるの? 

そんなに長く、わたしと付き合っていきたいと思ってくれているの?

 一番最初の質問を口にしようとしたときに、なぜか、さっきまでいた浴場の光景が浮かんだ。

乳白色のお湯につかりながら、もうずっと前に貼られたのであろう紙を、ぼんやりと読んでいた。

その紙には、源泉の温度や、歴史が簡単に紹介されているほか、温泉の効用が書いてあった。

 神経痛、筋肉痛、が最初だった。あとはなんだっけ、冷え性、とか、痔、なんていうのもあった気がする。疲労、はなかったかな。

 彼が再び唇を重ねてくるまで、わたしは効用を必死に思い出そうとしていた。

きっと一時間もすれば、もっと忘れてしまうであろう効用について。

キミの言うことは信じていたいんだ そう温泉の効用のように(わだたかし)





<今月の優秀作>


最後ということで、かなりの増量です!
それでも紹介し切れなかった短歌の作者のみなさん、ごめんなさい。

にしても、ストーリーで使わせていただいたものも含め、不倫短歌が多く感じました!
(ストーリーで使わせていただいたものは、別の読み方もできそうですが)
わたしの前フリのせいでしょうか。すみません。おもしろかったですが。

君からの熱い視線にドッキドキ足湯だからとあなどらないで(たむぼりん)
 足湯、は意外と使われなかったテーマでした。着眼点がいいですね。

温泉も刺身も鍋も嫌いなのそれでも来たの覚悟はいいの?(ぐみ)
 迫るようではありますが、不思議と可愛げを感じます。

する前は別々がいいした後に二人で一緒に入るのがいい(トヨタエリ)
 ストレートなエロティック短歌ですね! ドキドキしてしまいました。

湯けむりに包まれながらふりかえりふりかえり見る君はかなしい(文月育葉)
 温泉そのものが比喩のように感じました。リフレインが、確かにかなしいです。

はあぁってしたら白いよだからキミ草津温泉行ってあげよう(はづき生)
 結句が意外でした。思わずうなずいてしまいそうですね。

指きりをしたままずっと上がれない現実までの時間稼ぎの(西野明日香)
 のぼせそうな雰囲気と、切迫感が重なって伝わってきます。

死ぬんなら今だよきっと 石鹸のにおいをさせて君がわらった(遠藤しなもん)
 結句をわらったとすることで、かえって切実な様子を出していますね。

こんなとき何を話せばいいのよと浴衣で食べるほたての刺身(イマイ)
 さまざまなシチュエーションが浮かんでおもしろいです。

草津の湯でも治らない恋だから敷かれたふとんはふたりのために(こゆり)
 温泉と、不治の病(恋)をテーマにしたものは他にもありましたが、この歌が一番素直に表現できているように思いました。

もう既に手遅れですよケータイも繋がりません 浴衣を着よう(伊藤夏人)
 歌の主人公の様子ももちろんですが、相手の反応もいろいろ想像できそうですね。

この星の怒りによって温かいお湯に力をもらって 前へ(虫武一俊)
 温泉を怒りとした発想は、ありそうでいて、唯一のものでした。

草津まで卓球しに来たわけじゃないなんかないわけ楽しいけどさ(さまよい海月)
 少し余分な言い回しや、わけ、の繰り返しが、独特なリズムを作っていますね。

「去年来た」それは隠して喜んでみせる私を仲居が笑う(クマクマ)
 悪女ですね! こうした切り口の短歌は他になかったこともあり、おもしろかったです。

ぬれた髪乾かすよりも大切なことが彼女にあると知る夜(岡本雅哉)
 それはどんなこと、とうっかり想像(妄想?)するのを防げない力がありますね。

かぽーんを聞きにいこうよ どうみても不倫ですっていう顔をして(柚木 良)
 ししおどしでしょうか。後半の奇妙な主張(逆はよくありそう)に惹かれました。

おみやげはほしくなかった そんなこと言えずに笑う2人のそばで(MOMO)
 この歌の主人公は温泉に行っていない、という読みでいいでしょうか。新鮮な視点です。

「あーちょっとぬるいね」「そうね」「あっ月だ」濁り湯の下指を絡ます(スキスキ)
 関係のない話をしながら、というところにリアリティーとエロティックさを感じました。

ほんわりと朝の湯けむりまだ残る余韻のなかで光に溶けた(ソナ)
 湯けむりの幻想的な雰囲気を、そのままうまく使った短歌だと思いました。

効用のあるこの湯のように それぞれの思惑をもつ卒業旅行(このえ)
 卒業旅行というテーマも、絶妙な比喩もよかったです。

お土産を選ぶ君の背 もう少しだけ現実に帰りたくない(都季)
 不倫と読んだのですが、どうでしょう。確かに温泉街って、現実感薄いですよね。

週末は温泉街をはしごする 多分抱かれるためだけにいる(ゴニオ)
 諦めなのか自嘲なのか、あるいは喜びなのか、考えさせられます。

うつりゆく季節をながめてアタシたち温泉のもとになりたかったね(さかいたつろう)
 思わず読み返してしまうほど奇妙な願望に、けれどどこかで共感をおぼえそうです。

温泉に肩までつかり眼鏡ごし曇る未来を それでも見たい(ウクレレ)
 強い決意というよりむしろ、目の前のことに対する丁寧さや堅実さを感じました。

指輪を外してくれても跡がはっきり見えている お湯の中では(安藤えいみ)
 出ましたね、ザ・不倫短歌! 温泉というテーマにもよく合っています。

温泉街の灯りほわんと寂しくて明日には覚める夢を見させて(ほたる)
 覚めない夢ではないところに、冷静さと切実さを感じました。

<お知らせ>


今回、「かとちえの短歌ストーリー」が最終回を迎えるということで、
読者の方から、たくさんのメッセージが届きました。

連載継続を願ってくださる声や、感謝の声、さらには感謝の短歌などが綴られたそれらは、
比喩じゃなく、涙ぐんでしまうほど嬉しいものでした。

ここで、冒頭でも書きましたとおり、サプライズなお知らせがあります。

そんなみなさんのメッセージのおかげで、
「アンコール連載」を、
あと4回ほど、この場でやらせてもらうことが決まりました!

大げさでもなんでもなく、みなさんからのメッセージが与えてくださった場です。
本当に、心から感謝します。

アンコール連載に全力投球することで、そんな感謝の気持ちを示せればと思います。
詳しい企画につきましては、さらに下で説明させていただきます。

<アンコール連載について>


では、アンコール連載の概要について書かせていただきます。
タイトルは「かとちえの短歌色物語」となります。

みなさんから短歌を送っていただき、内1首をストーリー化(素敵なプレゼントあり)、
他数首を優秀作として紹介、という流れは現在と一緒です。

大きな変更点としましては、
○募集する短歌は、テーマとなっている色(日本の伝統色)にまつわるもの
○隔月更新
○4回限定(2009年2月・4月・6月・8月更新)
○更新日が10日→25日(初回は2月25日更新)
ということです。

それでは、さっそく、テーマを発表させていただきます。

<テーマ&かとちえ短歌>


「かとちえの短歌色物語」では、
毎回、ある色(日本の伝統色)をテーマとした短歌を募集します。
第一回目連載で募集するテーマは、
「白磁」です。大まかにいってしまえば、白ですね。
http://www.colordic.org/colorsample/2375.html
白磁という言葉を使わなければいけないということではなく、
その色とイメージが結びつくような短歌を募集します。
雪やシーツなど、白い物体ということでもいいですし、
プラトニックといった、抽象的なものでも、
イメージからずれていなければ大丈夫です。
以下は募集要項です。
2月10日締め切りで、一人2首以内、テーマ記載の上、
ペンネームがある場合はペンネームも添えて。発表は2月25日となります。
→送り先:tanka_57577@3anet.co.jp(第二出版部「かとちえの短歌色物語」係まで。
アドレスの「@」を半角に修正してお送りください)
そして、以下、白磁をテーマに詠んだわたしの作品です。

 

雪の日に君を思うと初めからいなかったような気がするのはなぜ


                                 (加藤千恵)