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特別連載 日本語教科書活用講座① / アカデミック・スキルを身につけるために -『聴解・発表ワークブック』を使って-
第1回 聞いてメモをとる


講師紹介 犬飼康弘 財団法人 ひろしま国際センター研修部 日本語常勤講師
『アカデミック・スキルを身につける 聴解・発表ワークブック』著者


第1回 聞いてメモをとる


『アカデミック・スキルを身につける 聴解・発表ワークブック』(以下『聴解・発表ワークブック』)では、メモを以下の3段階に分けて取るようにしています。


(1)CDを聞き、白紙(グラフ等は掲載されている)にメモを取るページ。「メモ1」

(2)「メモ1」を見ながら、穴埋め的に内容を確認していくページ。「メモ2」

(3)内容を理解したうえで、表現を確認していくページ。「メモ3」

それでは、実際に学習者が付属の音声教材を聞いて取った第1課の「メモ1」の一部を見てみましょう。
第1課の発表テーマは「食中毒」です。


音声サンプル CD5~10(2分39秒)


図1 「メモ1」の実例(第1課)




このメモを見てみると、まず、目につくのは、____のような下線部分があることです。


学習者が聞き取れなかったところです。このようにメモを取る練習も初めてですし、1回聞いただけですから仕方のないことだと思います。


さて、ここで問題になるのは、この____を埋めるために、もう一度、この「食中毒」の発表を聞くべきか…ということです。

私なら、ここでもう一度聞かせるのではなく、「メモ2」に移ります。

その主な理由は、以下の2点です。

(1)同じ発表を何度も繰り返して聞くことは、通常あり得ない(それに、学習者も飽きてしまう)

(2)全体の流れを無視して、ある一部分だけに焦点を当てて聞くという聞き方も通常しない

それでは、メモできなかった____の部分はどうするのか。

 

例えばメモ1で「流通経路」の前には「製造過程」という言葉が入りますが、私は学習者が____のように、分からない部分が後で確認できるようにしてある点を評価しました。

こうすることで、そのとき分からなくても、後で質問したり、友達にノートを見せてもらったりして、問題解決ができるからです。

専門の学習、研究を進めていく上で、多くの未知の言葉、表現に学習者は遭遇するでしょう。

その全てを事前に学習しておくことは極めて困難です。しかし、「どのようにすれば問題解決できるのか」ということは、事前に練習しておくことができるのではないでしょうか。

その機会を提供するのが、この「メモ1」の部分になります。

先程の学習者の書いた「メモ1」を「メモ2」に移すと、次のようになります。

 

図2 「メモ2」の実例(第1課)




黒字の部分は「メモ1」を見ながら書いた部分です。この後、確認のためにもう一度聞きますが、そのときに修正を加えたのが赤字の部分です。この学習者は、さらに修正が必要と感じ、蛍光ペンでもしるしをつけています。このようにすることで、後で自分の問題点を改めて確認できますし、この例では見られませんが、発音の弱点の確認にもなります。


ちなみに、下の図3は、同じ学習者が書いた、第6課(基礎編の最後の課です)の「メモ1」の一部です。

図3 「メモ1」の実例(第6課)


まだ完璧とは言えませんが、第1課と比べると、記号を使ったり、画数の多い「砂糖」を「sugar」と書いたり、英語などの媒介語を使ったりして素早くメモを取る工夫をしていることが見て取れます。

メモを取ることに最初は困難を感じていた学習者も、続けていく中で自分なりに効率の良い方法を模索していきます。いつも完璧なメモができるまで繰り返し聞いていたとしたら、このような工夫は見られなかったかもしれません。

上級レベルの学習者は、ある一定以上の日本語能力を既に有しています。それをいかに使い「問題解決」に結び付けていくかを考えることも、アカデミック・スキルの1つと言えるのではないでしょうか。

ところで、第1課の「メモ1」、第6課に比べて、横へ横へと進んでいるように見えませんか?
これには、どこにどのような情報が述べられているか、すなわち構成を意識しているかどうかも関わっているように思います。

そこで、次回はこの構成を軸に、「メモ3」から「発表練習」の部分へと進んでいきたいと思います。