ja

その他関連情報

荒川教授の「とりあえず日本語」ブログ
第6回 梅干しでごはん


外国人にとって学びにくい日本語の事項としては、
まず漢字があり、次に敬語があり、さらに初級の関門として、助詞がある。
言うまでもなく、日本語は名詞などの単語の後に「へ」「で」などの助詞を
ペタペタくっつけて、特定の意味役割を示す。

たとえば「駅へ」なら方向右斜め上を示すし、
「駅で」ならその場所で何かすることを、それぞれ示す。
助詞の習得がとりわけ大変なのは、中国の人たちで、
中国語には助詞に相当する概念が全然ないので、理解がむずかしい。ふらふら
逆に英語やフランス語には、in とか with とか、
いわゆる前置詞 (preposition)があるので、
それに似たものが後に来ている、と説明すると、
これらを母語とする人たちには、まあわかってもらえる。わーい(嬉しい顔)
たとえば

at eight

なら

8時

に対応すると考えられる。

 

そういえば、英語で書かれた日本語文法の本本の中には、
助詞を「後置詞」(postposition) と名づけているものがある。

単語や句の前じゃなくて「8時+に」と後に置く、というわけだ。
でも概念はそれでいいとしても、個々の助詞の意味をつかむのは、なかなか大変だ。
英語の in や with もたくさんの意味があって、
学生時代に辞書をひいてうんざりもうやだ~(悲しい顔)した覚えがある。
これは助詞も同じで、たとえば
「ペンペンを取る」の「を」なら動作の対象を示すけど、
「駅を出る」の「を」は出発点を示すし、
「公園バースデーを歩く」の「を」なら、通過する場所を示す。
これは教えるのも面倒で、
昔は英語の前置詞を学ぶほうで困っていたのが、
それから何十年もたって、
今度は日本語の助詞を教えるほうで困るなんて、
町田高校2年生の時には、考えもしなかった。
それに助詞の意味はいつも理詰めで行くわけでもないので、考え込むことも少なくない。

たとえば「箸ごはんを食べる」の「」は、
いわばごはんを食べる際の「手段」を示すもので、
これは初級の学習者でも使える。
でも、(ほかのオカズがない時に)「梅干しごはんを食べる」の「」は、
日本語能力試験1級を持っている外国人でも、使える人は5パーセント程度だろう。

「梅干をオカズにごはんを食べる」が言えれば立派なもので、
多くの人は「梅干ごはんといっしょに食べる」にとどまると思う。

この「で」は、箸の場合と同じく、ある種の手段を示すのだろう。

ところが「マーマレードパンを食べる」はしっくりこない。
この場合、考えの筋道としては

・「で」そのものに問題があるのか
・「ごはん」「パン」の食習慣に問題があるのか

を分けるのが普通だ。

つまり、「マーマレードでごはんを食べる」は不気味だけど、
ことばの使い方として間違っていることはない。ということは、炊いたお米、
つまり白飯は、必ず何かオカズがないと食べない、
という私たちの習慣が助詞の使用に影響していることになる。

 

ついでに、この「で」は、
オカズの相手がステーキとか焼肉といった重量級のオカズだと、使いにくい。

「ステーキでごはんを食べる」は、文脈によってはステーキはずいぶん軽んじられている。

やはり、梅干とかフリカケとかの軽めのオカズ、
いわゆる「ごはんの友」というべき軽輩が似合う。

ここには日本人としての白飯への過度なまでの重み付け
文字通りの「主食」という発想が潜んでいるようだ。ひらめき

私たちの生活や認識が文法に影響するのであって、逆ではない。

認知言語学の基本的な概念が潜んでいて、
教えるのは面倒だけど、考えるのはなかなか面白い。もぐもぐ。

 

荒川先生プロフィール