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荒川教授の「とりあえず日本語」ブログ
第11回「セレブ」の価値


ことばには値段はないけど、
何しろみんなが聞いたり話したりして使うものだから、
そこには一種の価値づけが生じる。

たとえば、「急に」は普通に言うけれど、
「にわかに」はちょっと古い感じがつきまとう。

これはいわば、新旧の価値付けだ。
あるいは、「いくら?」と聞くのは普通だけど、
「何円?」は大人が使うには、ふさわしくない。
これは、老若の価値付けと言えるだろう。
こういう価値付けはある程度の年数が必要となる。
しかし、マスメディアや広告で取りざたされることばは、
特定の製品や人と強く結びつくために、
その製品や人が売れなくなったり、旬でなくなったりすると、途端に価値が下がる。

 

最近、最も安値を記録したことばは、なんと言っても「セレブ」ぴかぴか(新しい)だろう。
僕は「セレブ」と聞いても、叶姉妹しか頭に浮かばないふらふら
(確信はないけど多くの人がそうだと思う)。

-セレブぴかぴか(新しい)だね、彼女。

みたいな物言いは、ハナから笑ってもらおう、という時にしか使わない。

 

この「値崩れ」の過程を「セレブ」を例に見ると、以下のようになる。
たぶん、「セレブ」も使われはじめには、それなりにいい含意があったのだろう。

たとえば、OLを読者対象にした雑誌などが、

-ちょっとセレブぴかぴか(新しい)なパーティバーにお呼ばれの時はピンキー&ダイアンの~で…

とか巻頭の特集記事で使ったりする
(今は笑うしかないけど、出盛りの時はそれなりに高かったはずだ)。
ところがメディアでこのことばが広まってくると、
それを体現したがる人たちが出てくる。
これは、誰でも美味しいものが食べたいのと同じだ。
美味しいもののほうでは、人を選べない。

やや落ち目の芸能関係の方々とか、あるいはお笑い芸人とかが

-セレブの私は…
-俺たちセレブじゃん。

などと言い始めると、もう安値は止まらず、急坂を駆け落ちる一方だ。バッド(下向き矢印)

そして最後に、安くなったことに気づかずに、それに気づく人たちが使い始める。
新橋辺りの中堅企業の課長さんが、月曜の朝、ヘアスタイルを変えたOL相手に

-おっ、アヤカちゃん、今日セレブだねぇ。

とか言い出すと、もはや末期症状だ。がく~(落胆した顔)
株で言うと「整理ポスト」期に入ったと言える。

この急激な値崩れは、主にカタカナ語に多い。
しかし、アメリカ人の友人たちによると、もともとの英語である
Celebrityぴかぴか(新しい)
には古い含意はないとのこと。

これは「有名人」という日本語が古くも新しくもないのと同じだろう。

カタカナ語に対する僕たちの用心や反感には、
そういう価値付けの不安定さが潜んでいるように思う。

 

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