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特別連載 日本語教科書活用講座③ / 日本語、作文指導Q&A 『留学生のための ここが大切 文章表現のルール』
第4回 読み手を意識して書くときに大切なこと


講師紹介  筒井千絵 フェリス女学院大学講師 『ここが大切文章表現のルール』著者


 


留学生への日本語作文指導は現場の教師にとって難しいところのひとつではないでしょうか。
今回から4回にわたり『ここが大切!留学生のための文章表現のルール』の著者、筒井千絵先生に作文指導のQ&Aとして連載をお願いしました。


第4回  読み手を意識して書くときに大切なこと



Q:学習者の作文の中には、文法や語彙は正しく使えていても、文章全体として書き手の言いたいことがつかめない、わかりにくい文章があります。こうした文章を改善するには、どのような指導が必要なのでしょうか。

A:
言葉や文法の間違いはないのに、文章が「わかりにくい」原因としては、以下のようなことが考えられると思います。
・説明不足…文章理解の前提となる知識が説明されていない、文と文をつなぐために必要な説明が抜け落ちている、など
・各段落の関連性がわからない…話題が唐突に変わる、論理展開に飛躍がある、序論で述べていることと結論部分が結び付いていない、など
・結論部分がない…文章が唐突に終わっている、結局何を言いたいために書いた文章なのかわからない、など




こうした問題については、テキストの第4部・第5部でも扱っています。「読み手の理解に配慮して過不足なく説明する」、「文脈がわかりやすいように内容を整理する」、「前提となる事実とそれに基づいた筆者の考えや意見を明確に書き分ける」などです。ただ、テキストの解説や練習で、ある程度学習者の「気づき」を促すことはできますが、その成果が実際の作文に反映されるまでに、かなりの訓練が必要とされる学習者もいるかと思います。

訓練法としては、前回の連載の授業例でご紹介したような、学習者が書いた作文をクラス全体で共有し、他の学習者から質問や指摘を受けるという方法も有効だと思います。やりとりを通して、書き手が読み手の視点に立って、「何をどういう順で書いていけばわかりやすくなるか」を考えながら推敲できるからです。

が、文章構成にかかわる推敲というのは、添削する側にとっても書き手にとってもなかなか負担の大きい作業です。一部を手直ししようとすると他の部分にも齟齬が生じ、結局は全体を直さなければならなくなる(つまり最初から書き直さなければならなくなる)という場合も少なくないからです。

ですから、書いてしまってから大きく構成を練り直さなくてもいいようにするには、まず書く前にある程度アウトラインを整理しておくことが大切です。ただ、学習者の中には、構成メモなどの作成を促しても、その習慣がなかなか身に付かない人もいます。考えをまとめる前に書きだしてしまい、書きながら思いついたことを行き当たりばったりで書いていってしまうのです。そういう学習者に有効な方法として提案したいのが、「作文を書く前に、書きたいことのアウトラインを、クラスメートに向けて話してみる時間を設ける」ということです。話すという作業を通して自分の考えを改めて整理することもできますし、聞き手から意見や質問を受けることで、自分の論理の矛盾や説明不足などに気付くこともできるからです。

では、実際の上級学習者の作文のクラスでのやりとりをご紹介したいと思います。
その回に、作文の大テーマとして設定したのは「先入観/偏見」で、このテーマに沿っていれば、具体的な内容については自由に決めてかまわないとしました。そして、作文を書く第一段階として、まず各自アウトラインだけを考えてくるという宿題を出し、準備はメモ程度でかまわないが、その内容を次回の授業で一人三分程度で話してもらうこと、その後クラスメートからコメントをもらう時間をとることを予告しました。以下はそのやりとりの一部を簡単にまとめたものです。

学習者Aのアウトライン
「私は、日本人の、『韓国人はみんな毎日キムチを食べる』というステレオタイプの考え方を聞いて、不愉快に感じたことがあります。私は毎日キムチを食べていないし、日本人だってみな毎日みそ汁を飲むわけではないでしょう。このような偏った考えによって、両国の食文化に関しての偏見が起こると私は思います。このような狭い視野で対象を理解しようとする行為は危険なのではないでしょうか。」

他の学習者のコメント
・実際に多くの韓国人はキムチを日常的に食しているのではないか。だとしたら「偏見」とは言えないのではないか。
・キムチは韓国人にとってのソウルフードだと聞いた。とすれば、日本人にとってのみそ汁と比較するのは適当ではないのではないか。
・キムチの例だけで「食文化に関する偏見」とまで言うのは大げさではないか。
・「危険」というのは、具体的にどういうことなのか。
・こうした偏見を持たないようにするために、Aさんはどうしたらいいと思うか。

学習者Bのアウトライン
「犯罪者の顔写真を見ると、みんな人相が悪く見えます。が、実際に罪を犯す人の人相が悪いとは限りません。それはその人が犯罪者であることを知って先入観にとらわれているからそう見えるのではないでしょうか。警察は人々のそのような事態を回避するために、目撃者の証言をもとに似顔絵を描く場合も、もできるだけ犯人の特徴を曖昧にしようとするそうです。以前ボリビア警察が発表した容疑者の似顔絵は幼児の絵のようでしたが、それでも最終的に犯人は捕まりました。」
他の学習者のコメント
・最初が唐突な始まりかたで、何の話か理解するのに時間がかかったので、もう少し前置きがほしい。
・もう捕まった犯罪者の顔写真の印象が悪いという話と、モンタージュ写真の特徴を曖昧にする話の関係がよくわからない。
・そのような曖昧な絵で犯人がつかまる理由がわからない。ボリビア警察の例の経緯をもっと詳しく知りたい。
・結局「偏見」についてBさんがどう考えているのかがよくわからない

質問やコメントの内容は、上のように「事実の真偽や参考資料の確認」「テーマと内容がどう関連しているのか」「結論は何なのか」などさまざまです。時には聞き手の要求が厳しすぎると感じることもありますし、コメントの適切さに疑問を持つこともあります。ですから、すべてのコメントにこたえる必要はないと話していますが、他の学習者の質問に答える形で説明を補ったり、構成を整えたりする過程を経ることで、第一稿がかなり整理されるようになってきました。そうすると自然と推敲の負担も減っていきます。こうした他の学習者とのやりとりが、自分の頭の中でできる(つまり一人でも読み手の視点に立って考えながら文章の構成を考えることができる)ようになれば、読み手にやさしい、わかりやすい文章を書くことができるようになっていくのではないかと考えます。