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特別連載 日本語教科書活用講座② / 日本語 会話の授業 『上級話者への道』 「中級から上級に向けて-上級話者になるための授業と学習」
第5回「会話の授業実践編3-2-中上級学習者クラスの授業例」


講師紹介 伊藤とく美 岩谷学園テクノビジネス専門学校日本語科主任教員
『日本語上級話者への道 きちんと伝える技術と表現』共著者


第5回 「会話の授業実践編3-2-中上級学習者クラスの授業例」



今回は、前回に続き中上級(中級後半)レベルの学習者のクラスの授業について、実際に『日本語上級話者への道』を使ってどのように授業を行ったらよいか、留意点について考えていきます。
前回、第4回の冒頭で中級から中上級のレベルの話者に欠けている日本語能力として、いくつかの項目をあげ、上級レベルでの目標設定についても触れました。
今回は「聞き手の期待や意図を理解して話す」についての授業例です。
授業例2「聞き手の期待や意図を理解して話す」
中上級のレベルの学習者はある程度意志の疎通はできても、相手の質問の意図や聞きたい内容について理解して話すことは難しいようです。
日本人独特の婉曲表現や間接的な言い方についても練習の必要があります。第2課の「きっかけを語ろう」を使って考えます。

 

2課 「きっかけを語ろう」



「さあ、始めよう」のテーマに沿って、ペアまたは3,4名のグループで話した後、2,3名に発表してもらいます。
発表の後、聞いた人たちに説明の内容や構成について感想や意見を聞いてみます。

 

例:
教師:
では、今ペアやグループで話した「日本へ留学したきっかけ」について、皆さんに聞いてもらいましょう。
誰か・・・<学生挙手>ゲンさんお願いします。
ゲン:
私が日本へ留学したきっかけはスピーチ大会で優勝したことです。それで日本へ来ました。・・・以上です。
教師:
はい、皆さん、ゲンさんの説明はどうですか。
キン:
ゲンさんは「きっかけは」ということばで説明したのでいいです。でも、スピーチ大会で優勝する前にどんなことをしていたか、優勝した後どんなことがあったか、どうして留学することにしたかわかりません。もっとその説明をした方がいいです。
教師:
はい、きっかけになるできごとの前後の状況も入れて説明するといいということですね。他の人はどうですか。
マオ:
きっかけだけ話しましたけど、もっと質問したくなります。例えば、どうして優勝できたのか、優勝した後の様子や気持ちはどうだったかなどです。
教師:
次々に質問されるようなことについては初めから説明した方がいいということですね。ゲンさんは、きっかけについて短く話しました。でもキンさんやマオさんの言ってくれたきっかけについての前後の状況とそのときの気持ちについても説明するともっとよくわかりますね。はい、では、もう一人、誰か、発表お願いします。・・(タムさん挙手)、どうぞ。
タム:
日本のアニメ・漫画がおもしろいですから、テレビでよく見ました。私の国でも人気があります。例えば、「どらえもん」「となりのトトロ」などです。一番好きなのは、宮崎駿監督の「もののけ姫」です。高校を卒業した時、アニメを勉強したいと思いました。私の作品を作りたいです。両親はだめだと言いました。でも、私は
日本で大学に行きます。日本に来て毎日生活は大変です。アルバイトもおもしろいですけど忙しいです。・・・・・。
教師:
タムさんの「留学のきっかけ」の説明はどうでしたか。
ボルド:
タムさんはアニメが好きだから日本へ来たと思いますけど、きっかけについてもっとわかるように説明することばを言うといいです。
ジュ:
タムさんの話はいろいろな内容が入っています。きっかけのことばがはっきり出て来ません。それと、順序を考えて説明したほうがいいです。
教師:
はい、皆さん、ありがとうございます。タムさんの説明は、「アニメ・漫画が好き」、「アニメの勉強がしたい」、「日本の生活は大変」と次々に話してくれました。タムさんの話はわかりましたけど、質問した人の聞きたいことは何か、よくわかってもらうために必要な内容と順序を考える必要がありますね。では、「きっかけ」を話すとき、どんな内容を、どんな順序で説明したらよいでしょうか。皆さん、どうですか。
イン:
内容は、まず、何か決めた時にどんなことがあったか、次に、新しいことを決めた後どうしたか、今はどうかなども話したらいいと思います。順序も同じです。
教師:
はい、決めた時の様子や状況、決めた後のこと、今の様子ですね。そして、この順序で話す、他にはどうですか。
マオ:
決める前の様子も入れて、どんなことがあったか、どうして決めたのか言ったほうがいいと思います。
ミン:
決めたときの気持ちと今の気持ちも入れたほうがいいんじゃないでしょうか。話す人のことがもっとよくわかるようになりますから。
教師:
ああ、そうですね。答え方はいろいろありますが、相手の人が聞きたいことに答えることが大切ですね。相手の人がどんなことを聞きたいのか、どのくらい説明が必要か考えて話すことが必要ですね。では、テキストの「何をどんな順序で」を見ましょう。

●何をどんな順序で



①以前の状況
②きっかけとなった出来事
③決めた時の気持ち
④今の気持ちなどを読みとり何をどんな順序で話すか考えましょう。


 

Step.2 どんなことばで2



「Step2」まで一通り練習した後で構成や内容、表現が適切であるかどうかもう一度発表してもらって確認します。

改善例
教師:
では、タムさん、「日本留学のきっかけ」についてもう一度発表お願いします。
タム:
①私は子供のときから日本のアニメや漫画が好きで見ていました。②中学生のとき、宮崎駿監督の「もののけ姫」を見て大変感動しました。③そして、いつか日本へ行きたい、将来はアニメに関する仕事がしたいと思うようになりました。それで、高校を卒業するとき、両親と相談して、反対されましたが、説得して日本留学を決めたのです。④今、日本語を勉強していますが、アニメ好きの友だちもできて充実した毎日で満足しています。②日本へ留学したのはアニメの「もののけ姫」に感動したことがきっかけだったと言えると思います。

①以前の状況 ②きっかけとなった出来事 ③決めた時の気持ち ④今の気持ち
5.中上級レベルの授業の留意点
(1)フィードバック
発表した学生に対してできている機能・できていない機能を明確に伝えることが大切です。各課の目標や『日本語上級話者への道』の「チェックシート」を見て、話すために必要な機能を確認しましょう。


(2)修正の仕方
間違った語彙や表現を訂正する場合は、「この語彙や表現は~のように言うと適切になります。」といくつかの例を挙げます。また、構成や順序について注意を促す場合も、「リンさんは今の話で内容は○と○について話しました。構成は1□、2□、3□でしたね。内容に○と○を加えるともっと分かりやすく興味が持てるようになります。構成については、例えば1と2を入れ替えて4番目に○を加えて話すとさらに詳しく説明できますね」などと具体的に伝えるように心がけましょう。