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特別連載 日本語教科書活用講座⑬ / 『みんなの日本語初級』の使い方
『みんなの日本語初級』の使い方。練習を活用してコミュニケーション能力を伸ばそう!
-コミュニケーションをとろうとする姿勢作り-

講師:明海大学外国語学部 応用言語博士 西川寛之


教科書の使い方を考える時に、どこで使うのかを考えることはどの教科書でも重要なことです。今回は、数か月から1年間程度、日本語の勉強に集中して生活する人々、例えば留学生や研修生に教えるときの使い方を考えます。


よく耳にするかもしれませんが「教科書を教えるのではなく、教科書で教える」という言葉があります。これを実践するには教科書のことを知る必要があります。多くの教科書には「まえがき」や「使い方」などが本課に入る前にあります。「まえがき」などには教科書を知るための情報があるので必ず読んで使ってください。   

『みんなの日本語初級Ⅰ第2版本冊』の場合は、本課に入る前の「効果的な使い方」に説明がありますが、学習項目ごとに授業を進めることが重要です。そして、そこで学んだ学習項目をどのようにコミュニケーションの中で使うのかを、目の前の学習者に合わせてアレンジすることは私たち日本語教師の仕事であり、腕の見せ所でもあります。


●コミュニケーションにつなげるテキスト活用法 
では、『みんなの日本語初級Ⅰ』の6課を例に見てみます。

6課に入るまでには「~ます」の4つの形を勉強しています。「~ます」「~ません」「~ました」「~ませんでした」に加えて質問する表現を作るための「(ます)か」を勉強しています。そして、6課では新しく「~ませんか」という表現を勉強します。5課までは事実を確認する会話が中心で、6課になると、人を誘う(「一緒に行きませんか」)、提案する(「10時に会いましょう」)といった、相手に働きかける表現が出てきて、コミュニケーションの幅が出る重要な課です。

この稿では6課の「~ませんか」を使うまでの学習の中で、他の人とコミュニケーションをとろうとする姿勢を作る授業の流れをご紹介します。

各課のはじめにある「文型」から学習項目を見ると、6課では練習Aに5つの文型が提出され、これらを1つずつ勉強していきます。

(みんなの日本語初級Ⅰ第2版 本冊 p230 より抜粋)


まず1つ目の学習項目(わたしは パンを たべます)に関しては、

練習A-1

練習B-1

B-2

B-3

練習C-1


と進みます。クラス授業の場合、教科書に出てくる問題を基にして、クラスメートの中でお互いのことを質問するような活動が入ると活気が出、各自が実際の社会の中でコミュニケーションをする時にどう使えばいいかを理解し運用につなげるようになります。


●「本物」の質問を授業に組み込む方法
練習A‐1は、「●●をVます」という単純な文で、

練習B‐1では、「水を飲みます」「本を読みます」「手紙を書きます」「写真を撮ります」と、助詞「を」の前に言葉を入れる練習をします。

練習B-2では、これを質問として相手に投げかける練習が行われます。「お酒を飲みますか」といった質問に、「はい」または「いいえ」で答える練習です。

ここまでは機械的なドリルを行っています。この直後に学習者同士でクラスメートの名前を呼んで本物の質問をします。
ここで言う本物の質問というのは、相手のことを知らない人が「きのうテレビを見ましたか」と質問したとき、その答えが「はい」か「いいえ」かわからない状態での質問です。(このような質問をレファレンシャル・クエスチョンと言います)本物の質問を練習の随所に入れ込むことは授業での大切な工夫です。活動としては練習問題を機械的に解く単純なものでも、正確な表現を身に付けるだけでなく、自分が言いたいことをどのように言えばいいのかと考える習慣が身に付きます。

因みに教科書の指示に従って答える練習のように、教師がすでに答えを知っている状態で、その答えを言わせる質問をディスプレイ・クエスチョンと言います。これは読解や聴解の授業などで、内容を理解しているかどうかを確認するには有効な手法ですが、コミュニケーション活動としては「本物」ではありません。

問題の解答を文字で書いて正確さの確認をすることもあるでしょうが、口頭での活動を皆さんもとり入れていると思います。その時に、解答に対して一言付け加えてみてください。例えば、「きのう、本を読みました」という解答があったら、「(何の本を読んだのか問いかける目的で)ハリーポッター?ワンピース?」というような問いかけをします。初めての時には、解答以外の質問をされることは予想をしていないと思いますが、普段の授業から例文を作るときにも具体的なイメージ持つ習慣をつけることで、より運用力を高めることができます。このような活動を続けていると、練習C‐1を終えた後に、クラスメート間でかなり自由なやり取りができるようになります。
 

●自分で増やす練習D
私の場合、このような活動として『みんなの日本語』に練習Dを加えることを意識しています。

練習Dというのは私が自分で付け足している活動のことで、練習問題で問われていることに一言付け加えたやりとりをすること、クラスメート間で本物の質問をする活動のことです。自分では「練習D」と呼んでいます。

「日曜日、何をしましたか」というような練習の「日曜日」を「きのうの夜」「あした」などに入れ替えることで自由な会話をする応用練習が自然に始まります。クラスメート間の関係が良ければ、誰かが日曜日にデートをすることを知っていて「今度の日曜日、何をしますか」など、いたずらっぽく質問するような状況も生まれます。このような質問は、実際のコミュニケーションを行う上で人間関係を円滑にする大切なコミュニケーションスキルです。

教科書にある表現を正確に使うことも大切なことですが、さらに初級前半の数少ない表現を使っていきいきとしたコミュニケーションができるように仕向けるのも日本語教師のやりがいであり腕の見せ所。皆さんもぜひ練習Dをとり入れてください。


今回の教科書活用講座は「2013 スリーエーネットワーク 日本語・外国語 図書目録」に掲載したコースデザインひとくちメモに加筆したものです。
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