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特別連載 日本語教科書活用講座⑮ /ニホンゴをニホンゴだけで教える = 「直接法」で「導入」する
③「~ことができます」を、「ニホンゴだけで」導入する その2


教 師: 〇〇さん、この本を食べてください。
学習者: <心の声: ハ? 本ヲ食ベロ? 何ノ冗談ダ?>いいえ、食べません。
教 師: どうぞどうぞ、食べてください。
学習者: <オイオイ、、、>いいえ! 食べたくないです。
教 師: あ、じゃ、机を食べてください。
学習者: <アノネ、机ナンテ食ベラレルワケナイダロ。ダイタイ噛ミ切レナイデス、コンナモン>いいえ! あ、あの、歯、歯が痛いです。
教 師: うーん、消しゴムを食べてください。
学習者: <ナニ? 今度ハケシゴム? モシカシテ、イジメカ?>いいえ、好きじゃありません! 消しゴム、食べます、お腹痛いです! 嫌いです!


・・・うーん、、、なかなかうまく行きませんね。この「食べる」という動詞、ちょっとやっかいです。日常で使われる場面を想像してみてください。話者が「食べることができない」と言うとき、「食べたくない」という意味だったり、「噛み切れない」「飲み込めない」ということだったりして、額面通り「食べることができない」という意味だとは限らないですよね。———「食べる」という行為には様々なことが「付随」(?)しているため、上記のようなやり取りに陥りかねないのです。


ということは、動詞は、できるだけ余計な「付随物」のない、例えば手を使って単純に行うような動作がいい、ということになります。


例えば、「開ける」。(ようやく前々回の宿題2の答です。大変お待たせしました。)

教 師: 〇〇さん、その窓を開けてください。
学習者: <アレレ、コノ窓、開ケラレナイゾ、、、>あのう、、、開けません、、、
教 師: は? 早く早く、開けてください。
学習者: <ダカラァ、開ケルコト、デキナインダッテバ!>開けます、えー、ません、、、
教 師: 開けることができません。
学習者: 開け?ことができません?、、、<オ! コレッテモシカシテ、「デキナイ」ッテ意味?>


さて、導入の途中ですが、ここで前回の宿題3、「導入で扱いやすい他の初級動詞はどんなものがいいか。」を考えます。


上記のように、学習者が「デキナイ」というコンセプトを理解し始めたら、引き続き他の状況、すなわち他の動詞を提示することで、学習者の類推が間違いなく「デキナイ」という地点に向かうように導くことが必要です。

「開ける」同様、手を使ってシンプルにできる初級動詞は、、、

教 師: この本(みんなの日本語・本冊)を、ポケットに入れてください。
学習者: エ?
教 師: 早く! シャツのポケットに入れてください。
学習者: <ソウカ、サッキノ、、、>えー、入れろ?こと?できません、、、
教 師: (大きくうなずきながら)ああ! そうですか、、、入れることができません、か、、、すみません。*1
      じゃ、〇〇さん、はさみでこの机を切ってください。
学習者: あー、切って?ことができません、、、
教 師: ああ! そうですか、できません、、、 


(「開ける」→「入れる」→「切る」と来ましたが、ここで大事な点を一つ。一つの動詞のやり取りが終わったら、間髪容れずに次の動詞を繰り出さなければなりません。間が空くと、学習者の想像力があらぬ方向へ行ってしまい、せっかく理解しかけた「デキナイ」という概念が、雲散霧消となりかねないからです。)

この辺まで来ると、学習者は(動詞の形はともかく)「デキナイ」という表現をだいたい理解できるようになってきていますよね。



いやいやちょっと待て、動詞の形はともかくって、形、直さなくていいの?


はい、ここで前回の宿題4、「みんなの日本語18課では「辞書形」が初出だが、「辞書形」を導入・練習した後で「ことができます」に入るべきか、あるいは、両者同時に導入してもかまわないか。」について。

まず、「辞書形」を導入・練習する、ということは、「開けます」を「開ける」に機械的に直す、ということが考えられますが、ただ「開けます」を「開ける」に変えるって何のため?という疑問を、学習者が抱いてしまうことはないでしょうか。


いや、「辞書形の勉強です」と宣言して練習すればいいんじゃないの?


はい。そういうやり方もありますね。でも、今進めているのは「直接法」の授業。「直接法」の真髄は、学習者が状況から類推し、意味にたどり着くことです。そう考えると、「辞書形」の存在理由がわからないまま、形のみを繰り返させることは、類推とは縁のない、いわゆる「文法」の授業になってしまいます。(もちろん、形から入るやり方がだめだと言っているわけではありません。学習者によっては「辞書形」と銘打って始める方が合っている場合もあると思います。)

つまり、ああ、「デキナイ」のときには、こういう形(「辞書形」)になるんだ、ということを理解してもらうのが、より直接法的なアプローチなわけです。

で、さっきの「デキナイ」の導入段階では、教師は学習者の形の間違いは訂正しない。いかにも「訂正」というやり方(正しい形を繰り返し言わせるなど)をせず、*1のように、やり取りの中に、自然な会話を装い、さりげなく正しい形を入れ込む程度に抑えることが肝要です。

なぜかというと、導入しているのは「デキナイ」という概念であって、辞書形ではないからです。むやみに形を直してしまうと、形に気を取られ、導入の眼目である「デキナイ」がぼやけてしまう。

「デキナイ」という概念が定着したな、と思ったら、「デキマス」へ。さらに、他の動詞、例えば「食べる」や「話す」などに移行します。

この、動詞を広げていく段階になって初めて、「辞書形」の「形」を意識させることができます。
「デキマス」が定着しさえすれば、制約なく動詞を広げられると同時に、安心して「辞書形」の練習もできる、というわけです。


例えば、文に用いる動詞を、活用別に提示、間違えたらしっかり訂正する。導入時と同様、常にインタラクティブなやり取りに徹し、、、

おっとっと、ここから先は、もはや導入の次の、定着練習の段階ですね。


「直接法」で「導入」する。今回は以上でお開きです。では。