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特別連載 日本語教科書活用講座⑯ /物語としての『みんなの日本語』
物語を彩る名バイプレーヤーたち

東京HOPE日本語国際学院 教務主任 渡邊一彦


「みんなが主人公」


 『みんなの日本語初級』においては、マイク・ミラーさんをはじめとした登場人物たちが日常遭遇するであろうさまざま状況に日本語で対応しており、学習者もそんな彼らの姿を通して表現等を学び日本語能力を高めていきます。
そして登場人物たちは皆、豊かで良好な人間関係を築いており、それが日本語学習の一助となっているように思えます。

『みんなの日本語初級』の主人公がマイク・ミラーさんであることに異論はありませんが、その他の登場人物たちにもそれぞれの人生があります。

誰もが『みんなの日本語初級』には欠かせない人々ですが、中でも二人の人物に着目してお話ししたいと思います。



「陰の功労者―山田一郎さん」


私の経験の中では実際の学習者たちにはそれほど強い印象を持たれていないようなのが残念でならないのですが、『みんなの日本語初級』が映画だとすれば、エンディングクレジットに最後に表示される出演者は山田一郎さんではないかと私は考えています。
それは外国人との交友関係を誰よりも幅広く築いている日本人だからです。

まず山田一郎さんが妻の友子さん(アップル銀行勤務)、息子の太郎ちゃん(8歳)と暮らしているマンションの隣室にサントスさん一家が転居(2課)してきます。
ほどなくサントスさん夫妻を自宅に招き(7・8課)、家族ぐるみの付き合いへと発展していきます。
夏休みには友子さんの実家にサントスさん一家を招く(14課)ほど親密になり、太郎ちゃんもサントス家の娘テレーザちゃんに花をあげる(24課)など恋心を抱いたふしが見られます。

勤務先のIMCにおいては同僚のマイク・ミラーさんと時には昼食をともにしています。
独身のミラーさんが980円のてんぷら定食を注文したのに対し、700円の牛丼を頼んだ一郎さん(13課)が物悲しくもありますが、ミラーさんを自宅へ招く(副詞・接続詞・会話表現のまとめⅠ)などプライベートでの付き合いもあり、太郎ちゃんもミラーさんと図書館でビデオを見たり(7課)して慕っているようです。

また、自家用車まで貸して引っ越しを手伝う(24課)などワン・シュエさんとも親しくしているようです。
その引っ越しにはカリナさんも手伝いに来ているので彼女とも知り合いではないかと思われます。
さらに、IMCとパワー電気が取引関係にあることが推測される(49課問題2-4)ので、カール・シュミットさんとも面識があるのかもしれません。

そんな山田一郎さんの生活が一変したのではないかと危惧される出来事がありました。
IMCを辞めたという男性とその妻の心情に関する記述(復習F)によれば、ロボットを作る会社に転職し東京に住んでいるというのです。
IMCは有名じゃない(8課)ですし、夏休みが4日しかない(第13課問題2-3)ことが不満で山田さんは退職したのかとも考えましたが、山田家には「10歳の子ども」はいないですし、「ダンスが趣味」なのは友子さんではなく一郎さんのはずだから(9課)退職した人は山田一郎さんとは別人だろうと安堵した次第です。

何はともあれ、これだけ多くの外国人と親しく接してくれて日本語教師としては感謝の言葉もありません。



「留学生の鑑―タワポンさん」


日本語学校の学習者は留学生が大半を占めていると思います。留学生たちはやはり日本語学校の学生であるタワポンさんの動向に注目しており、最も関心を寄せているのが「どうやって日本人の友人を作ったのか」という点です。
タワポンさんがタイ語を教えている「鈴木さん」(復習B)、駅で待ち合わせている「佐藤さん」(9課)、富士登山に誘ってくれた(20課)り、自宅へ招いてくれた(復習F)「小林君」など、日本学校時代にすでに知友を得ています。
さくら大学における(おそらくは)発表会の場で知り合ったカリナさん(復習A)を通じて富士大学の学生たちと友人になったのかもしれないですし、アルバイト(9課)先で知り合ったのかもしれませんが、子どもに人気がある(38課)タワポンさんの人柄も大いに関係していることでしょう。

そして『初級Ⅱ』でさくら大学に進学したことが明らかになると、学習者たちは「おお」という感嘆とも溜息ともつかぬ声を漏らします。
さくら大学でも、レポート作成を急いだほうがいいと気にかけてくれる「女性」(31課問題2-3)がいますし、友達と行くスキー旅行についての相談をしたりして(35課)「鈴木さん」との付き合いも続いているようです。

むしろ日本人の知り合いのほうが多いのではないかとも思えます。
カラオケが好き(47課)で、試験に名前を書くのを忘れたり(復習J)するタワポンさんですが、かつては日曜日にどこへも行かずに勉強(5課)したほどの努力家ですし、「アニメ」という趣味(47課)を通して交友関係を広げたのではないかということと日本語教室に参加する(50課)という積極的な姿勢を留学生にはぜひ参考にしてほしいと思います。



「きょうもどこかでだれかが」


『みんなの日本語初級』の登場人物や出来事には日本語学習者が自身を重ね合わせられる部分が数多くあります。
私たちが日々接している学習者たちが、私たちの暮らすこの街のマイク・ミラーさんであり、その仲間たちなのではないでしょうか。
そして『みんなの日本語初級』では今日も誰かが「みどり図書館」(23課)で日本語を勉強し、「はる」(35課)で髪を切った後には「ABCストア」(12課)で買い物していることでしょう。
体調を崩しても「神戸病院」(21課)なら安心ですし、きっと4月1日のジョン・ワットさんと木村いずみさんの結婚記念日(47課)には仲間が集まり「つるや」(35課)でパーティをしているのでしょう。