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特別連載 日本語教科書活用講座⑲/ 『みんなの日本語中級Ⅱ』を使った中級学習者の授業
-進学後も見据えた日本語運用力の向上を目指して-

講師 影嶋岳志 霞山会 東亜学院 東亜日本語学校 副教頭



私たち東亜学院の学習者は全員中国の学生で、そのほとんどが日本での進学を希望しています。希望進学先は90%以上が大学院、その他が大学といった状況です。したがって彼らが希望するのは受験のための日本語学習、日本語能力試験と日本留学試験も含めた試験対策に偏りがちです。また、近年では、日本語学校は一日も早く卒業し大学院や大学に進学することが留学成功への近道だ、といった風潮が中国国内にあるようで、ますます試験対策に偏る学習者が増えてきている感があります。

しかしながら、そのような学習を経て大学院や大学にスピード合格した学習者たちから、「教授の話が聞き取れない」「もっと日本語を勉強しておけばよかった」といった声を聞くことも少なくありません。このような状況の中、私たちの学校では進学後も日本語で困ることのない運用力を育成するために試行錯誤を繰り返しています。

初級では『みんなの日本語初級Ⅰ・Ⅱ』を使用し、約300時間学習しています。中級では一年半ほど前から『みんなの日本語中級Ⅰ・Ⅱ』使用し始め、学習時間は約400時間で進めています。今回はその中の『みんなの日本語中級Ⅱ』(以下『中級Ⅱ』、『みんなの中級Ⅰ』は『中級Ⅰ』)をどのように使用しているかご紹介したいと思います。



『中級Ⅱ 教え方の手引き』p. 3より



『中級Ⅱ』は、『中級Ⅰ』と異なる点が見られます。「文法・練習」「話す・聞く」「読む・書く」「問題」の四項目で構成されている点は同じですが、項目の配列が「読む・書く」「話す・聞く」「文法・練習」「問題」の順になっている点が中級Ⅰと異なります。「読む・書く」が課のはじめにあり、文法の詳しい説明や使い方の練習をせずに読解・聴解を行うことになるため、学習者は読解や聴読解を行うときに前後の文から類推を働かさなければなりません。教師側もできるだけ学習者の類推で内容理解を進めるよう促し、説明する場合も意味がわかる程度に止めるようにしています。そして、その後の「文法・練習」において細かい違いや運用の練習を行っています。

また、語彙量も『中級Ⅰ』の二倍以上、使用頻度の高低や人名地名などの語彙範囲も広くなっていると感じます。そのため、課に入る前に学習者に語彙表を配布し、予習をさせています。それにより、教室内での語彙説明の時間を短縮し、口頭発表などの活動に時間を割くようにしています。語彙表はその課の新出語彙を品詞別に書き出したもので、使用頻度が低いと思われるものなどは抜いてあります。読み方と意味を予習してきた上で、教室では使い方を中心に15分程度語彙の授業を行い「読む・書く」へと入っていきます



『中級Ⅱ 本冊』p. 3より





『中級Ⅱ 本冊』p. 1より





『中級Ⅱ 本冊』p. 17より



各課の項目の中で「読む・書く」は読解、作文ですが、その中の「4.考えよう・話そう」の項目では少し時間をかけて発話の練習を行っています。当学院の学習者は全員中国の学生で、読解力・作文力に比べて会話力が低い傾向があり、口頭能力の強化が狙いです。「1.考えてみよう」では、提示されている質問や話題について比較的自由に話をさせますが、「4.考えよう・話そう」では何の練習であるかを少し意識させます。例えば13課(上記『中級Ⅱ 本冊』p. 3参照)では「1)あなたにとって日本語の勉強をしていて、いちばん難しいと思うことは何ですか。」とありますが、この質問に対して単に「助詞です」「敬語です」と答えるのではなく、経験やエピソードなどを用いて理由を話しつつ答える活動を行います。また、学習者の答えとしては、日本語に限らずスポーツや料理、さらに難しさだけではなく面白さ楽しさなどでもかまわないことにしています。私たちの学校ではこの項目を「勉強、習い事、趣味などの難しさや面白さについて、エピソードを交えてわかりやすく話す」練習にしています。

また、14課(上記『中級Ⅱ 本冊』p. 17参照)の場合は「1)①日本製のアニメが世界中で人気がある理由として、本文で取り上げられている他にどんなことが考えられますか。」ですが、これは「社会現象やブームを詳しい理由・原因とともに話す」練習としています。韓流ドラマが日本人女性に人気がある理由を熱心に語った学習者や、自国の環境問題について語った学習者もいました。これは日本人学生と会話をする時や、場合によっては大学や大学院の面接で役に立つことがあるのではないかと考え、始めたものです。この14課を含めその場で考えるのが難しいものもあり、そのような時は宿題にして次回に回します。この活動は先に本文を読む教科書構成になっているため、本文を参照例として使うこともできます。



『中級Ⅱ 本冊』p. 43より





『中級Ⅱ 本冊』p. 47より





『中級Ⅱ 本冊』p. 48より





『中級Ⅱ 本冊』p. 49より



「話す・聞く」では課の冒頭(上記『中級Ⅱ 本冊』p. 43参照)に示されている到達目標の達成をメインに表現文型を学習し運用練習を行いますが、「2.聞いてみよう」(上記『中級Ⅱ 本冊』p. 47参照)は聴解練習の項目です。「3.もう一度聞こう」(上記『中級Ⅱ 本冊』p. 48参照)のページを見てしまうと、漢字の助けもあり表記で内容を理解してしまうため、まずは本を開かずに会話を聞くようにしています。『中級Ⅱ』は『中級Ⅰ』に比べ会話文が長くまたカジュアルな会話が多いです。その上新出語彙も多いため、細かい部分まで聞きとるのはなかなか難しいです。

しかし、学習者たちが進学した後に耳にする会話や講義では、未習のものがないことの方が少ないかと思われます。「読む・書く」の本文同様ここも類推を働かせて聞き、わからない部分があっても大意をとれる聴解力をつける練習にしています。一度目を聞いた後で、学習者に聞いた内容を絵にする活動を行っています。「4.言ってみよう」の4コマ漫画(上記『中級Ⅱ 本冊』p. 49参照)のような、聞き取り内容を4分割した絵です。この活動では、1コマ目は○○さん、2コマ目は××さんといった具合に一人1コマ担当させます。その後二度目を聞き、描いた絵に訂正や追加を入れさせます。

前述の通り試験対策のための勉強に偏る学習者増えている中、「2.聞いてみよう」の「1)内容を聞き取りましょう」(上記『中級Ⅱ 本冊』p. 47参照)の回答のみ聴き取ろうとする試験対策的な聴解ではなく、まず場面や人数などの全体像、更には表情などの細部へとイメージを鮮明化していく練習になればと行っています。最後に実際に教科書に書かれている4コマ漫画と比べるのですが、教科書のより私の方が上手だと主張する学習者もいて、けっこう盛り上がります。

使用し始めてからまだまだ日が浅いので手探りの状態ではありますが、読解中心になりがちだった中級の授業をより活動的にできる教科書ではないかと感じています。今後、効果の検証や使い方の改良を行い、より上手な活用法を探っていきたいと思います。