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特別連載 日本語教科書活用講座⑳ /アクティブな授業で学習者をつかむ!
入門,初級期が大切『みんなの日本語初級Ⅰ』を使っての直接法の授業

講師 吉里以久子 イー・エフ・インターナショナル ランゲージスクール 非常勤講師



私が担当する授業の学習者の目的は、進学や日本語能力試験合格などではなく、日本語で日常生活や、職場でのコミュニケーションをとってみたいとか、興味のある日本文化やサブカルチャーに接してみたいといった場合がほとんどです。


○さて、このようなクラスでの初めての授業です。


初級は『みんなの日本語初級Ⅰ』の2課の練習A-1、A-2から始めます。なぜここから始めるかというと、1課は初対面の人との自己紹介ができるようになるのが目的ですが、ここに出てくる「わたし」「あなた」という表現を提示する場合、質問者の「あなたは」という質問に対し、解答者は「わたしは」というふうに主語にあたる部分のことばそのものを変えながら入れ替えなければなりません。それに対し、2課に出てくる「これは~です」であれば、質問と答えのことばが変わることもなく、学習者を「これは~です」や「これは~じゃありません」に集中させることができます。

授業の流れは以下のようになります。
2課 練習A-1、A-2→よく使う表現を使ったやりとりの導入と練習→ロールプレイ→1課



○短い音の名詞を最初に教えよう


2課の練習A―1は「これは~です、何ですか」(プラスして「これは~じゃありません」)、A-2は「それは~ですか、~ですか」が学習する内容です。
ここでは、初めに「本」「ペン」「紙」など、短い音で実物を見せられる物の名詞を導入。これらの実物を見せながら、教師が口頭で音声を聞かせ、リピートさせながら、だいたい3つくらいの名詞を覚えさせます。



○文の導入と練習


次に覚えた3つの名詞を使い、「これは~です」、「これは~じゃありません」「これは~ですか」「(はい、)これは~です」「いいえ、これは~じゃありません」などの導入から入ります。学習者を一か所に集め、全員に「これは~です」の状況になるように実物教材を触らせて文を言わせます。そして、ペアにして、「これは~ですか」「はい、いいえ」の問答をさせます。たとえば。

これはペンですか。-はい、これはペンです。
これは本ですか。-いいえ、これは本じゃありません。
これは紙ですか。-いいえ、これは紙じゃありません。
これは何ですか。-これはペンです。
これはペンですか、本ですか。-これはペンです。
単純ですが、実物を見せながら、実際に触れさせ、周囲に示させて、結構念入りにやります。



○よく使う表現のやりとりの導入と練習


以上がしっかり定着したら、よく使う表現のやりとりの練習をします。このやりとりは後のロールプレイにつながるものです。

教師:すみません。
学習者:はい。
教師:「ペン」をください。(次のロールプレイにつながる)
学習者:はい、どうぞ。
教師:どうも。
学習者:いいえ。

「どうぞ」「どうも」「はい」「いいえ」「ください」などは、場面・コンテキストをくっきりわかりやすく示すことで理解を促し、ジェスチャーで意味を伝えることができます。
この場合の「どうも」「いいえ」などにふさわしいイントネーションもしっかり練習させます。

学習者同士のペアワークでも練習します。学習者の様子を見ながらペアを必ずかえながら練習していきます。
「これは~です」が言えるようになり、意味がわかり、「どうぞ」「いいえ」などの表現の練習をし、十分だと思ったらロールプレイに入ります。
次のロールプレイの目的は学習者に練習A-1、A-2で練習した文型及び、上記の口頭練習が実際の場面で使えるのだという実感を持たせることです。



○ロールプレイ


教師はレストランのメニュー(本物のメニューである必要はない)を持ち、学習者に示しながら「レストラン」と言う。

次に自分をさし、「ウエイトレス(またはウエイタ-)」と言う。メニューを見せること、または机を少し動かして教室を演出することで、ここがレストランであることをわからせます。

そして、教師は学習者に背を向けます。
学習者は「あれ!?」「どうしよう?」「どうすれば?」、頭の中ではおそらく母語で「すみませ~ん」と言っています。それを感じたら、学習者のほうに振り向き、小さい声で「すみませ~ん」と言いながら、学習者にも「すみませ~ん」と言うようにジェスチャーで指示します。
学習者から「すみませ~ん」とでてきたら、ふたたび「メニュー」と言います。
学習者から「メニューをください」とでてきたら、上述の練習の成果です。
学習項目と表現の導入と練習方法、練習量が適切であれば出てくる可能性は高いです。

次に紙でもカードでも、学習者に「メニューです」と言って渡します。教師はメモをとるような動作をします。
たとえば学習者が「コーヒーをください」と言ったら、「アイスコーヒーですか?ホットコーヒーですか?」と聞きます。学習者が「ホットコーヒーをください」と言い、少したってから教師は「アイスコーヒーです」と言って、何かをコーヒーにみたてて、学習者の前に置きます。ここで学習者から「アイスコーヒーじゃありません」の文がでれば練習A-1、A-2の導入・練習の成果です。

自分が注文したはずのものが出てこないのですから、学習者は一瞬戸惑うでしょう。そして、戸惑いながらも「じゃありません」と言います。このときの、この戸惑いが大切です。教師は学習者に次に何があるのか答えを教えない、ドキドキ感のある活動を仕掛けていきます。そして学習したことを使い、自から注文し、注文と違うものがきたときに、「~じゃありません」と言える!という達成感が得られるのです。大事なことは教師に言わされたのではないということです。
このロールプレイの目的は簡単な文型と名詞をいくつか覚えただけで、これだけの会話ができるという楽しさを体感してもらうということです。

そして、2課の練習A-1、A-2を中心にした練習、ロールプレイが終わり、1課に入ります。

以上は初めての授業で学習者をつかむための私の授業例で、『みんなの日本語初級Ⅰ』全体を見わたせばごく一部です。



○授業の留意点を以下にまとめます。


まずは口頭で「説明」しないことです。多くの場合、教師からの日本語の説明は、説明の文の方が難しいため、学習者に理解させるのは無理です。また、「説明」は教師の一方的なレクチャーであり、学習者の発話を導かないという点で、コミュニカティブではない授業になってしまいます。
質問の仕方も学習者が簡単に答えられるような順番で、最初はYES、NOクエスチョンからするようにします。最初の質問が疑問詞の文は学習者には難しいからです。

そして、授業は教師のモノローグにならないように、学習者との問答で進めていくことです。繰り返しになりますが、文法のルールや形などを最初に説明したりして教えないで、学習者自身が発見していくように導くことが大切です。また教師が発することばは意味があるものでなければならず、一語一語に目的をもって話すことも大切です。日本語のわからない学習者は、教師の発することばを集中して聞こうとしています。聞いたことばがわからなかったりすれば、余計なエネルギーを使いますし、余計なエネルギーは今後の継続学習のモチベーションにもかかわってきます。

また、授業計画も重要です。授業計画を立てるときに、必ずその日の、その課の、その週の課題を考え、毎回どこかにゲーム的な要素やロールプレイをいれ、学習者を立たせたり、動かしたりしてアクティブに、ゲーム感覚で覚える楽しさを教えるようにすると、毎回の授業で達成感を与えることができます。

また、宿題は必ず出すことです。やってこない学習者がいても出し続けます。授業だけでは外国語の習得は難しいからです。自己学習は必須です。

最後に聞き取り練習について書いておきます。『みんなの日本語初級Ⅰ本冊』の聴解問題はスピードが速いため、私ははじめは『みんなの日本語初級Ⅰ聴解タスク25』を使っています。『本冊』の聴解の問題は、聞く回数は多くて3回くらいです。クラス授業の場合、すぐに聞きとれる学習者は何回も聞くことになるし、分からない学習者は何回聞いても分からないというようなことになりかねません。折角色々な会話ができるようになり、楽しかったのに、聴解をやってから自信をなくしてしまったということにならないように気をつけましょう。

「みんなの日本語」は積み上げ式であり、機能シラバスでもあるので使いやすい教材です。
一つ一つ項目を着実に理解しながら積み上げていく教材であるからこそ、今回触れたような活動での達成感が大きいと言えます。
今回の教科書活用講座では、まずは2課の練習A-1、A-2から導入しました。『初級Ⅰ』の範囲で他にも学習項目の順番を入れ替えることもあります。
教える内容・目的によって何に重点を置き、どのような順番がよいかを考えることも教師の醍醐味だと思います。