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特別連載 日本語教科書活用講座27 / ロールプレイをするときに大切にしている5つのポイント-『みんなの日本語中級Ⅰ』第11課を例に-
ロールプレイをするときに大切にしている5つのポイント
     -『みんなの日本語中級Ⅰ』第11課を例に-

講師 神恵介 中央情報専門学校 日本語本科




学習者に合った教科書選択
これまで当校は9割以上が中国からの留学生でしたが、ここ数年でそれが逆転し、今では9割以上が非漢字圏からの留学生となりました。
このような状況の中、テキストの見直しを行いました。中国の学生が中心だった時に使っていた、読解、記述中心の中級以降のテキストは非漢字圏の留学生にとっては漢字の壁ががあることを考慮し、非漢字圏の留学生にとってより適当で、漢字圏の留学生にとってもメリットがある教科書選択を目標に検討しました。

その結果、昨年度から正式に『みんなの日本語中級』を当校のメインテキストとして使うことに決めました。決定に至った一番大きな理由は、「話す・聞く」が全課にあり、その作りが非常に丁寧だということです。練習を重ねることによって会話のポイントから会話全体の流れまで身につけられるように作られているところが教科書採用の一番の決め手でした。他の理由は『翻訳・文法解説』があることや、『みんなの日本語初級』と同じ登場人物が出てくるので学生たちの抵抗が少ないことなどです。

実際に教科書を変えてみた結果、非漢字圏の学生たちは中級の勉強にも積極的に、楽しんで参加するようになりました。特に、この「楽しんで」というのは、読解中心の教科書をメインテキストとしていた時は、なかなか見られなかった光景です。

また、漢字圏の学生にとってもメリットはありました。漢字圏、特に中国の学生独特の硬い表現が、このテキストを使うことによって柔らかくなったような印象を受けます。実際、細かな言い回しなどもテキストにそって勉強できるのが良い、という意見もありました。
 みんなの日本語中級Ⅰの構成(『みんなの日本語 中級Ⅰ 教え方の手引き』より転載)



授業の全体像
学生は非漢字圏、なかでもベトナムとネパールの学生が中心のクラスです。
1日前後半の2コマ授業で、1コマは90分です。
メインテキストは『みんなの日本語中級』。

それ以外に10分~15分程度のシャドーイングや聴解を毎日少しずつ行ったり、JLPTの勉強も行います。漢字学習もしっかりと時間をとって行っています。
『みんなの日本語中級』での授業は非漢字圏学習者が多いこともあり「話す・聞く」の進度のほうが早くなります。「読む・書く」はかなり丁寧にやらないといけないので、どうしても遅くなります。その結果、『みんなの日本語中級Ⅱ』にはいるときには、先行していた「話す・聞く」が先にはじまり、「読む・書く」は後追いになります。

課毎の授業の流れ(「話す・聞く」)
1:語彙 
まず「話す・聞く」のところに出てくる語彙だけを学習します。それでも量が多いので、2コマに分けて行います。「読む・書く」で学習する語彙は漢字語彙が多く、「話す・聞く」の語彙と同時に導入すると負担が多いこともあるので、「話す・聞く」と「読む・書く」の語彙学習のタイミングはずらして行います。

1:語彙の授業
語彙の授業は『みんなの日本語中級Ⅰ翻訳・文法解説』を使いながら行っています。
予習を前提に授業を進めるためにも翻訳・文法解説を渡しています。が、なかなか全員が予習してくるのは難しいので、教える側としては予習をして来ない学生がいることを前提に授業に臨みます。

語彙の導入はできる限り絵カードを準備するようにしています。これは学生たちからもリクエストされていることです。筆者の場合は、無料画像などを利用した絵カードをパワーポイントで作成し、テレビモニターに写して、意味確認をしたり、クラス全体、または学習者個別にリピートさせたりします。テレビを使用するとカラーのものを簡単に見せられたり、動きのあるものも見せられるので学習者の興味を惹くにはうってつけです。



図1

授業で取り扱った語彙はプリントを配布し宿題にしています。

図1のようにシンプルなもので、学生自身が語彙、漢字、母語や英語での意味、短文などを自分で書くようなものです。
宿題は後日(2,3日後に)回収して確認します。やはり、提出する学生としない学生がいますが、このようなところで最終的な日本語力に差がつく印象です。
ちなみに、この宿題は『みんなの日本語初級Ⅰ』の時から行っています。


2:「文法・練習」
「文法・練習」は試験(JLPT)対策のこともあるので、語彙の授業の後に2コマ分を使い全部やります。導入し、意味確認、例文の読み、練習問題、とほぼ教科書通りにすべてを行います。


3:「話す・聞く」
「話す・聞く」も教科書通りに行います。
基本的には、「話す・聞く」の「1.やってみましょう」から順番に「7.チャレンジしましょう」まで教科書の通りに進めていきます。教科書の通りに進めていくことによって、一通りの会話の流れをつかみ、会話練習もできるのがこの教科書の特徴であり良いところなので、ここは順番を変えたりはしません。
ただし、筆者が考える大切なポイントがあります。それは、「話す・聞く」にはいる前に、一度各課の頭に戻って「その課の目標」をみんなで確認するということです。

ここで一度、みんなで確認することによって向かうべき方向性を共有すると、その後の授業展開がしやすくなります。課の目標が、細かすぎないのもいいですね。


4:「話す・聞く」の「7.チャレンジしましょう」
最後に「話す・聞く」の「7.チャレンジしましょう」では、シナリオプレイやロールプレイを行います。


「話す・聞く」のシナリオプレイ・ロールプレイについて
1:授業の進め方
今回は11課のシナリオプレイ、ロールプレイを例にとってお話します。
いきなりロールプレイなどをするのは難しいので、まずは各パートの練習を行います。
11課の「話す・聞く」のポイントは「提案する」「提案を受け入れる」ことですから、練習は提案するほうの練習と、一回提案を受け入れてから意見を言う練習に分けて行います。
筆者が自作したプリントをご覧ください。



まずは「会話の流れを思い出そう」のところで、もう一度、課の課題を確認し、それからみんなで会話の流れを再確認します。ここまでは既に前日までの授業でやっているのですが、今回の目標は自分たちで会話を作ることなので、必ず会話の流れは頭に入れてもらいます。

それから、「練習する」のプリントの使い方を説明します。全体の会話の前半部分(プリントの練習1)は相談する人が「提案」をする部分です。ここは初級の復習のようなかたちですので、難易度は低いはずです。
そして、会話の後半部分(プリントの練習2)は提案を一度受け入れてアドバイスや提案を行うところです。提案に対して、YES、NOだけではなく自分の考えを言う形になるので、難易度が上がっており、この課のいちばん大事な部分になります。ですから、ここの部分は事前に「大切な部分だよ!」と特にわかりやすく伝えます。

そして、説明の最後にこのロールプレイを行うときの注意点を学生たちに伝えます。プリントの1ページ目の下部分ですね。ここは、課によって多少変えます。

ここまでの説明が終わったらペアでプリントの課題「練習1」「練習2」に取り組ませます。時間を取り、できるだけペアの2人(場合によっては3人)で話しあわせて会話を作り、書かせます。その間、教師は各ペアをまわって手直しをしたり、ヒントを出したり、できたペアは少し声出しをしてもらったりしながら完成を手伝います。だいたいのペアが完成したら、各ペアに書いたものを発表してもらいます。


2:ロールプレイを行う際の注意点について
各注意点を設定した意図を簡単にご説明します。

1.だれと だれが 話しているか よく考えよう。

2.相手によって 話し方を 変えよう。
→実際の会話では話している相手によって適切な表現や言葉を選ぶことがとても大切なのに、教室で練習すると、どうしても普通系で話してしまう留学生が多い。折角の練習の機会だから、状況に応じた話し方を身につけさせたい。

3.やわらかい言い方、文法を使ってみよう。
→この課のように「提案」を取り扱う場合は、「はい」「いいえ」をはっきりと言わないケースが多いし、この課の練習のスタイルもそうなので、特に意識して指導する。

4.話しはじめ と 話し終わり を 大切にしよう。
→せっかく中級になったんだから、自然な会話を目指させたい。初級だと、どうしても唐突な話し始めや、ブツッと切れたような会話の終わり方があってもしょうがないが、中級ではそれをなくしたい。

5.今までに習った文法、表現を 使おう。
→この課で習ったことはもちろん使ってほしいところだが、それにとらわれすぎるのは良くない。学生自身が身に付けてきた語彙、文法、表現も自由に使ってその課の目標達成を一緒に目指したい。

6.「はい」「いいえ」「すみません」「ちょっと」だけで終わりにしない。
→中級では会話を続かせて、会話を楽しむことができるようになってほしいので、できるだけ長く続くように促す。
また、YES、NOで答えたほうが、話が早い、または、長く話さなくて済むと考える留学生もいるが、そういった学習者にこそ、ここでは自分の気持ちや意見を入れた会話を作らせたい。


「話す・聞く」のシナリオプレイ・ロールプレイの.練習方法と評価
1.練習、発表方法
「練習1,2」が終わったら、いよいよ「練習3 自分で考えよう」です。ここでは、会話文を台本のように書かせることはせず、メモ程度の内容にとどめて書かせます。教師も、「練習1,2」では丁寧に会話文を作らせたのとは違い、学生には出来る限り会話の流れを頭に入れるように指導します。

そして、発表は出来る限り書いたものは見ないでしてもらいたいですが、発表してもらうことが目標なので無理強いはしません。

発表はペアごとに行い、できればスマートフォンなどで撮影をしておきます。

2.評価
発表の評価は、会話の流れを大切にしているか、この課の目標である「提案」ができているか、各注意点を守れているかを重点的に見ます。以上のことが達成できていれば、暗記したかどうかには重点を置きません。なぜなら、たしかにメモを見ないでやり切ることも大切ですが、実生活で練習とまったく同じ場面に遭遇することはほとんどないからです。ですから、会話の流れや表現を大切にして、現実にも対応できる力をつけてもらいたいと思っております。

フィードバックは、発表の時に撮っておいたスマートフォンの映像をテレビモニターにつなげて行います。
この方法だと、発表が終わった瞬間に映像を出してフィードバックが行えるので学習者も教師も効果的な振り返りが行えます。