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特別連載 日本語教科書活用講座28 / 『中級へ行こう』を使った活動(プロジェクトワーク)
「テーマを活かしてフリーマーケットを実際にやってみた」

講師 徳森 柚子 日本語教師




〇日本語で積極的に発信できるように
私が日本語を教えている日本語学校では、初級レベルでは基礎文法の定着と4技能(読む・聞く・書く・話す)を身につけるため、教材は『みんなの日本語初級Ⅰ,Ⅱ』を使用し、その後の初中級レベルではメイン教材として『中級へ行こう 日本語の表現と文型59』(以下、『中級へ行こう』)を使用しています。

以前の中国人学習者が大半だったころに比べ、非漢字圏の学習者が増えている今、初中級レベルの学習が中級以降の学習に大きく影響すると考え、当校では『中級へいこう』のテーマを活かした活動や作文などを通して、中級以降の文法学習への足掛かりを作るとともに、積極的に自分の考えを日本語で発信できるようになることを初中級レベルの目標にしています。


〇テーマを活かした各課の活動
当校では、各課の文型や本文を平均6コマ(1日45分×2コマ×3日)学習した後、各課のテーマによって活動をしています。今年度は全10課のうち、6つの課で活動を行いました。各課の活動は以下の通りです。

第1課  「ファストフード」…作文
第2課  「地震」     …地震への備えについてグループ発表
第5課  「睡眠」     …作文
第7課  「リサイクルとフリーマーケット」…フリーマーケットを実際に開催する
                       清掃工場の見学
第8課  「あいづち」   …母国との習慣の違いについてのスピーチ大会
第10課  「ことばの使い方」…日本人の言葉の使い方で気になったことのスピーチ

学生達がそれぞれ国や日本で経験・体験したことがあるような身近なトピックの課では作文やスピーチ発表を、反対に、トピックに対しての予備知識があまりなく、クラスやグループ皆で知恵を絞り、意見を出し合えるような課では少し多めに時間をかけた活動をして、達成感やクラスの団結を図りました。

本来であればすべての課で活動をしたいところですが、作文は1.5日、グループ発表やフリーマーケットなどは、実際やらせるとなると準備から実施まで3,4日以上かかってしまうので、活動をしない課で時間を調整し、だいたい4か月程度で1冊(10課)を終わらせます。


〇フリーマーケットの開催
当校では、今年(2015年)、9月18日にフリーマーケットを開催しました。そのタイミングに合わせ、『中級へ行こう』第7課(フリーマーケット)を、開催日の1か月ほど前に学習しました。

7課の冒頭「話しましょう」のところでフリーマーケットについて話し合う箇所があり、学生たちには、実際に1か月後に校内でフリーマーケットを開催することを告知し、どんな準備が必要か考えさせ、学生一人一人の役割分担を決めました。

分担としては、店長、会計、物品管理、お釣り集め、宣伝ポスター、値段決め、教室レイアウトなど、各担当2名ずつで、店長には週2回程度、準備の進度報告をさせました。
1か月前に告知はしたものの、授業時間内での準備時間は開催日前日の2コマだけしか取っていなかったので、休み時間や授業後にリーダーを中心に話し合いをしている光景をよく見ることができました。
当日は2クラスがフリーマーケットを開催し、他クラスの学生達や職員相手に販売したり、もう一方のクラスに客として買いに行ったりと、大盛況に終わりました。


〇フリーマーケットの効果
今回のフリーマーケットでは準備の段階から販売終了まで母語を禁止にしていたので、彼らも初級から今まで学習した日本語を総動員して活動していました。

例えば、売り物の中に歯間掃除用の「デンタルフロス」があり、客側の学生に「これは何ですか」と聞かれた際には、「これは歯を掃除するのに使います」と答えていました。これはみんなの日本語42課の文型で、理解はしているもののなかなか使う機会が無かったであろうと思います。この文型を使っているのを聞いて、思わず胸が熱くなりました。

フリーマーケットも終盤に差し掛かった頃、会場では、物品を売り切るための「まとめ売り」が始まった時には、こんなやりとりもありました。ある店側の学生が数枚の服を並べ、「全部100円。とても安い」と言いました。その学生が本来伝えたかったのは「全部で100円」でしたが、それを聞いた客側の学生に「安くない」と言われたので、店側の学生は少し考え、その数枚の服をまとめて袋に入れ、「100円です。安いでしょう?」と言っていました。今度はうまく伝わったようで、客側の学生は100円を払って行きました。

私は一連のやり取りを近くで見ていて、学生が自分の日本語の間違いに気づき、且つその問題に別の方法でアプローチし、見事解決していたことにとても驚きました。学生が間違えると教師はすぐに訂正したくなってしまうものですが、時にはこちらが何もせず見守るだけでも、学生の「伝えたい」という気持ちが、自身で問題解決していく力を引き出せるのだと痛感しました。


フリーマーケット終了後の感想では、「日本語の単語がわからなくても、例をたくさん出せば伝わった」「私たちはお店でもアルバイトができるかもしれない」と、自分の意見や考えが相手に伝わった喜びと、伝えることができたという達成感や自信を感じられました。
今までは自分の日本語力に対しての自信のなさから、工場や倉庫など日本語を使わないアルバイトを選んでいた学生たちも、これをきっかけに積極的に日本語で交流し、活躍の場を広げていってくれればと願っています。