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特別連載 日本語教科書活用講座31 /『日本語 読み書きのたね』を使って「大変」を「楽しい」に!
『日本語 読み書きのたね』を使って「大変」を「楽しい」に!

東京三立学院 竹野 藍


●はじめに
初級を終えた学習者が、次のレベルに進む際、読み書きに抵抗感を示すことがあります。そのため、読解や作文の授業は、学習者も教師も「大変だ」と思いがちな分野ではないでしょうか。

背景には、漢字の読み書き力、語彙量、文法知識の不足もありますが、私自身は、読み書きを「楽しむ」ことができていないことが根本的な課題なのではないかと感じていました。各種試験対策における速読力とは異なり、主教材として扱う読み書きは、「楽しむ」ことができなければ、苦手意識が続いてしまうと思っていました。『日本語 読み書きのたね』は日本で暮らす生活者の視点で書かれた非常に身近な話題を扱っており、進学を目指す留学生でも取り組みやすいのではないかと、使用を決めました。


●対象クラス
クラス(19名)全員が非漢字圏学習者。初級修了レベル。


●学習の準備
第1回目の授業の際、別冊「新しいことば」(英・中訳付き)を確認し、新出語彙表の使い方を説明。
ベトナム人学習者にはウェブサイトよりダウンロードしたベトナム語訳を配布。
また、16~17ページの「このテキストに出てくる人たち」の使い方を説明。


●授業の進め方(進度:50分1コマで2つの「読みましょう」を扱う)
担当教師は、別冊「活動の手引き」に必ず目を通し、質問例や発展例を参考にすることで、学習者の発言や気づきを促す活発な「読み」を目指しました。

1回目の読みは頭から教師が音読します。すぐに内容確認の「しつもん」を口頭で確認し、文章の大意はとってしまいます。

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内容確認の質問(『日本語 読み書きのたね p24)※クリックして拡大


初回の授業では、答えを出すことが目的の授業ではないことを伝えました。

続く2回目の読みで、語彙や文章構成の確認をしながら読み込みます。その際、

 ①「文章から気持ちを読み取ること」
 ②「極力、学習者間でのやり取りを心掛けること」

を大切にしました。文章は基本的に筆者の気持ちや考えがまとまったものであると感じてもらい、自分の思いを積極的に発言することで、学習者の気持ちが文章に入っていき、文章内容の深い理解につながることをねらいとしました。

「書きましょう」は、授業内で、下線部の穴埋めや構成メモまでを扱い、実際に書く作業は宿題としました。そして、別枠で実施している週2回のスピーチの授業で作文の発表を行いました。学習者は、これまでの授業で扱った「書きましょう」の中から、好きなものを選びます。スピーチの前に添削は行いません。整った形での発表よりも、学習者が自分の想いを自由にアウトプットすることを目的としました。

スピーチ授業終了後、全員から作文を回収し、簡単な添削を行いました。この際、誤りを指摘するのではなく、学習者が自らの体験を書いたり、想いを書いている部分を積極的に評価することとしました。(当校ではこの授業とは別に「作文」の授業も行っています。)

実際の発表では、例えば、ユニット9「読みましょう3」の自分の作った料理について書く活動では、アルバイト先の居酒屋で担当している料理の作り方について自慢げに発表をした学習者に対し、別の学習者から、「(自分は同じチェーン店の別店舗で働いているが)その作り方は順番が違います!ちゃんとマニュアル読んでください!○○を先に入れなきゃダメです!」と手厳しいコメントが入り、教室中が大爆笑となりました。発表し、反応が返ってくることで達成感が得られていたようです。


●教師も学習者も「楽しい」授業を
『日本語 読み書きのたね』を使った授業を通して、学習者に「笑顔」が増えました。テキストの後半に進む頃には、オチを楽しんでおり、発言も格段に増えました。プロフィールを埋めることで、登場人物に愛着が生まれている学習者もいました。

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プロフィールを書き込みましょう(『日本語 読み書きのたね p16)※クリックして拡大


「飼っていたペット」(ユニット6)「自分がもらったうれしいメール」(ユニット14)の「書きましょう」を使った発表では、発表者が感極まって涙し、クラス全体がもらい泣きをするという感情の共有が生まれました。読み書きというものが、人の感情と密接に結びついており、楽しめるものだということを教師も学習者も体感できたと感じています。

これまで、地域の日本語教室向けの教材は、日本語学校の進学コースでは扱いにくいイメージがありました。しかし、このテキストは、語彙や文型の予習を促すことができ、各ユニットの「読みましょう3」は、段落を意識して読ませる仕組みになっています。
初級を終え、各種試験や進学に向けた読解、作文能力育成への移行を困難に感じることの多い非漢字圏学習者にとっては、まずは日本語を使って楽しむという語学習得の原点に立つことで、その後の学習のモチベーションや姿勢に良い影響があるのではないかと思います。

学習者、教師の「大変」を「楽しい」に変えるためのヒントがたくさん詰まった教材だと感じました。



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