特別連載 日本語教科書活用講座⑧ / 『みんなの日本語初級』を使った暗記テスト、シナリオプレイ 第3回 いきいきとした会話の授業のための教科書活用法③シナリオプレイ

横浜デザイン学院日本語学科 主任 佐久間みのり


『みんなの日本語初級』の中で会話の練習に該当する部分は練習C、例文、会話などがありますが、授業で準備段階を経ずに急にロールプレイをしても、あまり興味を引くおもしろいものにはならず、一生懸命話しているグループのかたわらで、聞く側はつまらなそうにしていることがあります。また、文法をいくら積み上げていっても、実生活やドラマ・アニメで学生が耳にするのは、マニュアル的に使われる敬語や友達とのくだけた表現、そして教科書にはあまり出てこない乱暴な表現などで、そのときの対人関係も友人・上司と部下・教師と学生といったような単純な関係ではありません。今回は、会話の授業を、会話をする側・聞く側双方が楽しめ、かつ実生活の対人関係や、ドラマ・アニメの中で話されているようないきいきとしたものにするために、どうしたらいいか考え、実践した活動について紹介したいと思います。

前回までの教科書活用講座でも紹介したように、『みんなの日本語初級』の例文を毎回暗記させました。その際、くじ引きでペアを作り、ペアで学生たちの前に立ち、身振り・手振りをつけながら、感情を込めて発表させました。学生たちは最初は覚えることに精一杯で、恥ずかしがっていましたが、毎回おもしろいパフォーマンスをする学生がおり、笑いをとっていました。そのうち他の学生も慣れてきて、アドリブを入れて違う話にしたり、まるで俳優のように発表するようになりました。そして、聞く側も発表している学生の演技を楽しみにするようになりました。

そこで、『みんなの日本語初級』50課が終わったところで、49課・50課で勉強した尊敬語・謙譲語を使う場面を考えて、ミニドラマを作成することにしました。時間は45分授業×4コマ(準備2コマ、練習・発表2コマ)で行いました。最初に、尊敬語・謙譲語が使われる場面・登場人物を考えさせ、簡単に設定します。例えば、学校の学生と先生、店の店長、アルバイト、客などです。

そして、学生たちをグループに分け、それぞれ見ている人がおもしろいと思うのはどんな内容・展開・役・台詞か考えさせました。グループごとにワークシート①を配布し、教師はストーリー作成時にヒントになるようなコメントを入れておいたり、アドバイスをしたりしました。

ワークシート①




シナリオ作成の台詞は、くだけた表現でもマニュアル敬語でもふさわしければどんどん使ってもらいました。学生たちから出てくる言葉は、「ふざけんじゃねぇ」「お前」「先公」・・・みんなどこで耳にしているのでしょう。「お待たせいたしました」「ご注文は以上でよろしいですか」「少々お待ちください」・・・店に行けば必ず耳にする言葉ですよね。

シナリオが完成したら、暗記テストの要領で台詞を暗記させます。その上で身振り・手振りなどをつけ、感情を込めて言えるように、演技の練習をします。いきなりこれをするのは難しいですが、暗記テストをやっていると意外とスムーズにできます。

発表は1グループ5分程度で行います。聞く側は「場面・役・内容・感想」について、ワークシート②にメモをとらせました。聞いている学生それぞれに、どんな場面でどんな人たちが話しているか考えさせました。

ワークシート②


ミニドラマ発表会

場面                  : ファーストフード店

役(名前)                :

内容                  :

感想(おもしろかったところ)     :


学生のワークシート②の感想は「おもしろかった」というものが多かったですが、内容についても、話のポイント・落ちをよく理解していました。しかし、あるグループは落ちを単に何か事件が起きるという意味合いでしかとらえておらず、おもしろい内容にすることができませんでした。この落ちについては、個人の性格にもよると思いますが、事前にミニドラマ(『新日本語の基礎復習ビデオ』)などを見せるなどして、その話の「落ち」やポイントは何かということを確認するような活動も必要かもしれません。また、くだけた表現、特に乱暴な言葉をドラマの中では楽しそうに使っていて、聞く側の印象にも残ったようでした。こういう言葉は普段の授業では取りたてて導入したり、あ練習することもないので、このような活動を通して紹介するのもいいかもしれません。

この活動以降も、このクラスの学生は比較的発話が多く、感情を込めて発言するのが上手であるように感じられます。学生も教師側も日本語の世界が教科書の中だけではなくもっともっと広いのだということに改めて気づかされました。

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